Q1.人格権とは?

【弁護士の解答】

第1 定義
人格に基づく、生存し生活をしてゆく上での様々な人格的利益の帰属を内容とする包括的な権利をいう。
第2 法的根拠
民法709条、710条である。民法710条は、人格権の例示として身体権、自由権及び名誉権を挙げたものと解する。
第3 人格権に基づく請求の種類
  • 1 損害賠償請求
  • 2 侵害行為の差止請求
 但し、差止請求は、損害賠償請求よりも高度な違法性が要求される。
 
第4 例外
(1) 私人の行為による侵害の場合
  • ① 侵害行為の態様と侵害の程度
  • ②被侵害利益の性質と内容
  • ③侵害地域の環境
  • ④侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況
  • ⑤その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果
  • ⑥その他諸般の事情、を総合評価する(最一小判平成6年3月24日)
 

(2)国・地方公共団体の行為による侵害の場合
  • ①公共性(侵害行為の持つ公共性の内容と程度)を考慮要素とする
  • ②侵害行為の態様と侵害の程度
  • ③被侵害利益の性質と内容
  • ④被害の防止に関する措置の内容を総合的に考察する
但し、①はあまり重視しない。


(3)実務的な実際

裁判例は、受忍限度論を形式的には用いるが、実際には、行政上の規制基準に違反してなければ違法ではないと結論づけることが多い。騒音事例ではその傾向が顕著である。
一方で政策目標にすぎない環境基準(環境基本法16条)は、裁判で重要視されない。
第5 主張立証責任と抗弁
1 請求原因
受忍限度を超えたことは原告が主張立証する責任がある。
2 抗弁
「危険への接近の理論」が抗弁となる。
つまり加害者と被害者の先住後住関係が違法性阻却事由として抗弁となる。たとえば、騒音を発する工場などがあることを認識しながら、それを容認して近くに居住した者は、認識したところから推測される程度を超える被害を被ったなどの特段の事情がない限り、被害を受忍すべきである(最大判昭和56年12月16日)。
第6 具体的な訴訟例
1.名誉侵害に基づく損害賠償請求
2.名誉棄損に基づく差止訴訟
たとえば、被告は別紙書籍目録記載の書籍の出版、販売、頒布又は発送をしてはならない。
3.名誉侵害に基づく名誉回復措置請求
たとえば、被告は、原告に対し、●●新聞の朝刊第●面又は第●面に、別紙1記載の訂正記事を、見出しは●号、本文は●号の活字を用いて、1回掲載せよ。との主文である。
4.環境訴訟
身体・健康や、周辺環境の破壊による平穏生活権を被侵害利益として、損害賠償、操業差止請求を行う。
5.プライバシー侵害に基づく損害賠償請求
プライバシーとは、みだりに他者に開示されないことが法的に保護される私生活上の情報をいう。プライバシー権とは、同プライバシーをみだりに他者に開示されない権利である。
私生活の平穏の利益を保障する権利、自己に関する情報をコントロールする権利である。

6.プライバシー侵害に基づく差止請求
たとえば、被告は、別紙書籍目録記載の書籍につき、別紙記事目録記載の各記述を切除又は抹消しなければ、出版、販売又は頒布をしてはならない。との主文である。

7.発信者情報開示請求(プロバイダ責任法4条)

8.肖像権侵害に基づく損害賠償請求及び同差止請求
肖像権とは、みだりにその容貌、姿態を撮影されたり、撮影された写真等を公表されない権利をいう。
たとえば、ヌード写真集の出版差止訴訟、監視カメラによる店舗内の客の撮影の可否等で問題となる。

9.氏名権侵害に基づく損害賠償請求及び同差止請求
氏名権とは、自己の氏名を独占的排他的に使用することができる権利である(専用使用権)。
たとえば、
  • ①少年犯罪の実名報道
  • ②精神障碍者の犯罪の実名報道
  • ③犯罪被害者の実名報道
等で問題になる。

10.日照妨害に関する損害賠償、差止請求(建築基準法56条の2等)
たとえば、
  • ①被告は、別紙物件目録記載2の土地上に建築中の鉄筋コンクリート造陸屋根8階建建物のうち、別紙図面の赤斜線の部分の建築工事をしてはならない。
  • ②被告は、別紙物件目録記載1の土地上に建築計画中の建物を同目録記載2の土地との境界線から5メートルの範囲内において建築工事をしてはならない。との主文である。
    ※ 差止請求は、建築工事が完成すると、訴えの利益が失われる。

11.建築工事等の騒音・振動被害に基づく損害賠償請求、差止請求

たとえば、
  • ①被告は、原告の住居内に●●㏈以上の騒音を到達させてはならない。
  • ②被告は、●●㏈以上の騒音の発生を防止するための防音設備をせよ。との主文がある。

12.店舗営業等による騒音・生活騒音被害
たとえば、被告は、別紙物件目録記載1の建物から発生する騒音を、同目録記載2の建物内に、午後9時から翌日午後7時までの時間帯は40㏈(A)を超えて、午前7時から同日午後9時までの時間帯は53㏈(A)を超えて、それぞれ到達させてはならない。との主文がある。

13.悪臭被害に基づく損害賠償・差止請求

14.眺望の利益侵害に基づく損害賠償・差止請求
たとえば、被告は別紙物件目録記載の土地上に、別紙図面記載の設計図面に基づく建物を建築してはならない。との主文がある。

15.景観の利益侵害に基づく損害賠償・差止請求
たとえば、被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物のうち、別紙図面AないしZの各店を順次直線で結ぶ範囲内の地盤面から高さ20mを超える部分を撤去せよ。との主文がある。