Q1.妻が家を出て行きました。妻は自分で出ていったくせに、私に生活費の面倒をみろといいます。支払う義務はありますか?

【婚姻費用分担義務の法的根拠】

民法760条は「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と定めています。 また、民法752条は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と定めています。 実務・通説は、「扶助は夫婦が互いに自分の生活を保持するのと同様に相手方の生活を保持することであるから、結局は婚姻関係の保持ということになり、法定財産制にいわゆる『婚姻から生ずる費用』の負担と同じことになる」としています。

【実務上の婚姻費用分担義務の範囲】

婚姻費用分担義務は、婚姻が事実上破綻した状態で別居する夫婦間においても、支払うことが原則です。実務では、民法760条の婚姻費用分担義務は、自己の生活を保持するのと同程度の生活を相手にも保持させる義務(生活保持義務)であるとされ、妻が有責配偶者でない限り、別居し婚姻が破綻していても離婚までは妻からの婚姻費用請求を当然のように認めています。

Q2.婚姻費用はいつまで支払わなければならないのですか?

【解答】

婚姻費用分担義務の終期は、調停や審判では一般に、「別居の解消(又は同居)又は離婚(又は婚姻の解消)に至るまで」とされています。判例においても、「離婚訴訟が係属している場合であっても、夫婦である以上、現実に婚姻解消に至るまでは婚姻費用分担義務を免れるものではないと解すべきである。」との考えが一般的です。

【有責配偶者の婚姻費用請求は認められるか?】

(1)相手の不貞行為等の有責行為によって婚姻関係が破綻した場合には、その相手からの婚姻費用請求は信義則又は権利濫用によって許されないとする判例が一般的です。

(2)判例

①福岡高宮崎支決平成17年3月15日家月58巻3号98頁

XはAと不貞に及び、これを維持継続したことにより本件婚姻関係が破綻したものというべきであり、これにつきXは、有責配偶者であり、そのXが婚姻関係が破綻したものとしてYに対して離婚訴訟を提起して離婚を求めるということは、一組の男女の永続的な精神的・経済的及び性的な紐帯である婚姻共同生活帯が崩壊し、最早、夫婦間の具体的同居協力扶助の義務が喪失したことを自認することにほかならないのであるから、このようなXからYに対して、離婚費用の分担を求めることは信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。

②東京家審平成20年7月31日家月61巻2号257頁

別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというべきところ、申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって、このような場合にあっては、申立人は、自身の生活費にあたる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず、ただ同居の未成年の子の実質的看護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。

(3)調停の実務では、相手の有責行為を主張しても、その証拠が明白でない限り、離婚するまでは婚姻費用分担義務を負うものであるといわれ、算定表に基づく婚姻費用額の支払いを承諾するように説得されることがあります。この場合、証拠が明確にあるときには、調停を不成立として、審判で主張立証することが望ましいといえます。なお、このときであっても、子の生活費分についての支払い義務を免れることはできません。

Q3.婚姻費用の変更をしたい

【強制執行の排除を検討すること】

仮に一度決まった婚姻費用の支払いを怠った場合、強制執行される可能性があるので、執行停止の審判前の保全処分の申立てや、請求異議の訴えを検討する必要があります。

【婚姻費用変更の根拠】

当事者間の協議、調停、審判で、婚姻費用の分担が決定した後に、分担額決定の基準とされた事情に変更が生じ、従来の協議等が実情に適せず不公平なものとなったときは、民法880条を類推適用して従前の協議等を変更できるとするが、判例の一般的な考え方です。民法880条は「扶養をすべき者もしくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度もしくは方法について、協議又は審判があった後に事情に変更が生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。」と定めています。

【事情の変更の程度】

元の協議、調停、審判のときに既に存在し判明していた事情や予見し得た事情については、事情変更に当たらないとする判例学説が有力です。この事情変更とは、「前審判又は協議により定められた現在の扶養関係をそのまま維持することが当事者のいずれかに対してもはや相当でないと認められる程度に重要性を有すること」と解する判例もあります(福岡高宮崎支部決定昭和56年3月10日家月34巻7号25頁)。「審判確定後の事情の変更による婚姻費用分担金の減額は、その審判が確定した当時には予測できなかった後発的な事情の発生により、その審判の内容をそのまま維持させることが一方の当事者に著しく酷であって、客観的に当事者間の衡平を害する結果になると認められるような例外的な場合に限って許されるというべきである。」と判示して、月10万円の婚姻費用を月7万円に減額した原審判を取り消して、原審に差し戻したものがあります(東京高決平成26年11月26日判時2269号16頁)。

【事情変更による婚姻費用変更の基準時はいつですか?】

(1)大別すると、以下の4つの説があります。

①事情変更時

②変更の請求時

③調停又は審判申し立て時

④審判確定時

判例は、従前の協議に基づく婚姻費用の支払いを求める訴訟が通常裁判所に係属中であっても、家裁は、事情変更による婚姻費用の変更審判ができることに関連して「事情に変更を生じた過去の時点にさかのぼって従前の協議を変更して新たな婚姻費用の分担額を審判により決定できる」としています(東京高決平成16年9月7日家月57巻5号52頁)。実務では、②変更の請求時、又は③調停又は審判申立時とすることが多いです。したがって、事情変更が生じた場合には、速やかに婚姻費用減額調停や請求をすることが重要となります。

Q4.婚姻費用の算定方法はどのようにしていますか?

婚姻費用の義務者が自営業者の場合、義務者の年収は以下のように計算します。

(1) 確定申告書の「所得金額」-「社会保険料控除」+「青色申告控除」+「実際に支払がされていない先従者給与額」

(2) 確定申告書の「所得から差し引かれる金額」のうち、医療費控除額、生命保険料控除額を差し引かないのは、医療費や生命保険料は、算定表で「特別経費」として、基礎収入の認定にあたり最初から考慮されているからです。

(3) 青色申告控除額と実際に支払いがされていない先従者給与額が加算されるのは、これらは実際には支払われていないからです。

(4) 減価償却費は加算すべきか?

現在の実務での有力な考え方では、義務者が現実に事業用資産の取得に要した借入金の返済を行っている場合には、「基本的には、適正な減価償却費であれば各年度の必要費としてこれを控除した上で総収入を認定し、算定表を適用する(別途、事業用資産の取得に要した負債の返済を特別経費とは認めない。)ことでよいが、申告にかかる減価償却費をそのまま養育費等算定の前提として控除することが疑問な場合には、減価償却費自体は控除せずに、所得金額に加算することとし、別途特別経費として現実の負債返済額(経費扱いされていない分)の全部又は一部を控除するなどして総収入を認定するという方法をとることが相当である」とされています。

【妻が居住する住宅の住宅ローンを夫が支払っている場合はどうしますか?】

夫は、妻の住居費を負担していることになりますが、住宅ローンは基本的には資産形成のための費用であるので、原則として住宅ローン返済額全額を、婚姻費用分担額から控除することはできないとされています。

住宅ローンを考慮する方法としては、次の2つがあります。

①住宅ローン支払額を特別経費として、夫の収入から控除する方法

②算定表による婚姻費用の算定額から一定額を控除する方法

判例は、②の方法をとる、算定表による婚姻費用算定額から、権利者の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除した金額を夫が支払うべき婚姻費用としています(東京家審平成22年11月24日家月63巻10号59頁。近時の実務では、この審判の方法をとるものが多いです。

この方法は、妻の収入が低い場合には、その標準的な住居関係費も低額となるため、夫が実際に負担している住宅ローン額に比して、控除する住宅ローン額が少なくなってしまいます。

【子どもが私立学校に通っている場合はどうしますか?】

(1) 算定表では、公立中学及び公立高校の学費、学用品代、通学費用等の標準的な教育費は含まれています。

(2) 子どもが私立学校に通っている場合の学費等については、義務者が私立学校の神学に同意している場合や、資産、収入、学歴、職業、社会的地位等からみて、義務者に負担させることが相当と認められる場合には、これを加算することにします。

(3) 加算額の計算方法は次の2つがあります。

① 私立学校の学費等から、算定表において考慮されている「平均収入に対する公立学校教育費相当額」を控除する方法

② ①を権利者と義務者の基礎収入で按分する方法

実務では②の方法をとることが多いです。