【弁護士の解答】
- (1)逮捕が先行すること
- (2)逮捕後、法定時間内に勾留請求がされること(刑訴法204条1項・205条・203条)
法定時間内とは
- 検察官が警察から被疑者を受け取ったときは72時間以内
- 検察官みずから被疑者を逮捕したときは48時間以内
但し、「やむを得ない事情」でこの制限時間を遵守することができなかったときは、その事由を疎明して勾留請求できる(206条)
- (3)被疑者が罪を犯したことを疑う「相当な理由」があること
相当な理由とは、罪を犯したことを疑うにたりる充分な理由(210条)の場合よりその程度は低くてよいが、犯罪の嫌疑が一応認められる程度の理由であることを要します(大阪高判昭50・12・2)。
否定例 |
・被疑者・目撃者などの関係者の連絡先を知らない ・被害者と示談が成立している ・犯行についての物的証拠、第三者の目撃証言等の客観的証拠あり。 ・単独犯であり、同伴者がいない。 ・会社、暴力団等による組織犯罪ではなく、組織的背景がない。 ・共犯者が先行して逮捕、取調べ、捜索・差押えをうけている。 ・先行して捜査がなされ、通常逮捕された。 ・すでに捜索・差押えをうけている。 ・詳細な自白調書が作成済みである。
|
- (4)住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれのうち、いずれかの理由があること(勾留の理由)(60条、207条)
「罪証隠滅の隠滅すると疑うにたりる相当な理由があるとき」とは、証拠に対する不正な働きかけによって、終局的判断を誤らせたり捜査や公判を紛糾させたりするおそれがあるときという意味です。
罪証隠滅の対象 |
犯情のみならず、情状に関する事実も含まれる。 |
罪証隠滅の態様 |
予想される証拠に対する働きかけの態様を指す。具体的態様は、共犯者との共謀、証人(参考人)との共謀・圧迫、物証の毀棄・隠匿、これらを被告人の属する組織・団体の勢力や団体的統制力を用いて行う場合が想定されます。 もっとも、被告人にも自己に有利な証拠を収集する権利があるため、共犯者と打合せをしたり、証人として予定されている者から聞込みなどしたりすることが予想され、これらをもって直ちに罪証隠滅のおそれがあるとはいえない。もっとも、現実問題としては、被告人自らによる直接的な接触のおそれが強いときは、罪証隠滅のおそれが強いと評価される可能性が高い。 |
罪証隠滅の余地 (客観的可能性および実効性) |
相手の証人尋問がすでに終了しているときは、再度の証人尋問が予想されるような場合を除き、罪証隠滅の実効性は乏しいと考えられます。 |
罪証隠滅の主観的 可能性 |
被告人に具体的な罪証隠滅行為に出る意図のあることを指します。被告人の供述態度から判断します。矛盾供述や否認供述をしている場合、主観的可能性が推認されます。黙秘についても、黙秘自体を不利益に取り扱うことは許されないという前提に立つとしても、率直な自白という供述態度が罪証隠滅の意図を否定する根拠になりうることとの対比において、その反射的な不利益が黙秘した者に及ぶことは実際問題として否定できない。 |
「おそれ」の程度とは、単なる抽象的な危険性ではたりず、確実性までは要求されないが、具体的な資料によって裏付けられた高度の可能性のあることを要します。
「逃亡のおそれ」とは、被告人が刑事訴追や刑の執行を免れる目的で裁判所に対して所在不明になることをいいます。裁判所への不出頭、捜査機関の許への不出頭が所在不明のおそれと結びつくときは、逃亡のおそれが認められます。
被告人の生活状況が 不安定と言う状況 |
年齢、職業、居所、定職の有無、暴力団員及びその関係者か、といった事情から認定している。 |
処罰を免れる目的などで身を隠そうとすることを強く窺わせる状況 |
事案が重大で、非常に重い刑を科されると予想さること、重い処分につながる前科前歴があること、暴力団体組織との結びつきが強く、組織力を利用して身を隠せること、余罪があることなどから認定している。 |
〈否定例〉
- 扶養家族・同居家族がいる
- 身元引受人がいる
- 定職がある
- 事案軽微で比較的軽い処分が見込まれる
- 未成年者で生活は両親に依拠している
勾留の必要性(87条1項参照)
勾留の本来の目的に照らし、被告人の身柄を拘束しなければならない積極的な必要性(公的な利益)と、その拘束によって被告人の蒙る不利益・苦痛や弊害とを比較考量して、前者がきわめて弱い場合や後者が著しく大である場合は、勾留の実質的な必要性が欠ける。最終的な判断は、事案の軽重や勾留の理由の度合い(罪証隠滅や逃亡のおそれの強さ)と相関関係に立つ。
〈否定例〉
- 扶養家族がいる
- 定職があり、勾留が続くことで失職するおそれがある
- 学生である
- 入学試験がある
- 病気を患っている
※裁判官は、要件が欠けていれば勾留請求を却下とし、事後的に要件を欠くに至ったときは、請求または職権により勾留を取り消さなければならない(87条)。
※30万円以下の罰金、拘留、科料に当たる事件については、被告人が定まった住居を有しない場合に限り、勾留できる(60条3項)。
※少年の場合は、「やむを得ない場合」でなければ勾留することができない(少48①)。
※国会議員の場合は、会期中その所属議院の許諾がなければ勾留されない(憲法50条、国会法33条以下)。
【参考条文】
刑事訴訟法
第203条
1 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
○2 前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。
○3 司法警察員は、第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない。
○4 司法警察員は、第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○5 第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第204条
1 検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○2 検察官は、前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない。
○3 検察官は、第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○4 第一項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○5 前条第二項の規定は、第一項の場合にこれを準用する。
第205条
1 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
○2 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
○3 前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○4 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第60条
1 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
○3 三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。
【外部への連絡】
〈以下のために依頼人の家族や友人等に連絡することはOK〉
〈注意点〉
弁護人は守秘義務を負っています(弁護士職務基本規定23条)。依頼人が逮捕事実を隠したいと申し出れば、これに従う必要があります。しかし、外部と連絡する際に、自らが弁護人であることや、逮捕事実を隠すことは不可能なので、仮にそうした事実を隠した上で、外部連絡をしてほしいと頼まれた場合、不可能であると断らなければなりません。
〈 罪証隠滅に関与しないこと〉
依頼人から、自宅などに遺留した重要な証拠の処分を依頼したり、第三者に依頼するように伝えてほしいと頼まれた場合、当該行為は、証拠隠滅罪(刑法104条)に当たる危険性があるため、はっきりと断らなければならない。
第三者に対する伝言の中に罪証隠滅を指示する言葉がある可能性もあるため、そうした場合には、当該第三者との人的関係を尋ねたり、伝言の内容を詳しく聞くなどして、疑いがあるときは、断らなければならない。
【金品等の管理】
〈例〉
- 自宅にある現金を差し入れてほしい
- 留置所にあるキャッシュカードを娘に渡してほしい
〈注意点〉
自宅に入ると、あとで貴重品がなくなっていたときに、弁護人が盗んだと追究されるおそれがあります。キャッシュカードも横領を疑われるおそれがあります。
〈対応方法〉
- 依頼人の家族や友人にお願いする
- どうしても必要がある場合には、委任状を作成した上で、複数人で立ち入り状況の動画撮影を行う
- 基本的には断る
【ペットの餌やり問題】
〈注意点〉
- いったん引き受けると、ペットが死んだときの責任を負わされるおそれがある
- 住居の出入りを行うことになり、鍵の管理や貴重品の紛失などでトラブルになるおそれがある
- 時間的コストが大きすぎる
〈対応方法〉
- 依頼人の家族や友人にお願いする
- どうしても必要がある場合には、委任状を作成した上で、複数人で立ち入り状況の動画撮影を行う
- 基本的には断る
【債権回収を頼まれたときの対応】
被疑者が仕事をしている途中で逮捕・勾留されたとき、給料をかわりに受け取ってほしいなどと言われることがあります。
しかし刑事弁護人は民事の代理人ではないので、給料の代理での受け取りを行う権限はありません。また給料を受け取ったか否かで、のちのち、被疑者や勤務先とトラブルになるおそれもあります。
したがって、断るべきです。どうしても行う必要がある場合には、被疑者から委任状を受け取ること、勤務先には振り込みで行うことを申し入れて履歴に残るようにしておくこと、が肝要です。勤務先を訪れて現金手渡しの場合、あとで持ち帰ってみたところ、お金の数字が合わないなどといった無用なトラブルが起きかねません。
【1審判決後の再保釈への対応】
1審判決後、国選弁護人として再保釈を被告人に頼まれることがあります。たしかに控訴保釈の請求を裁判所にする権限は1審国選弁護人にあります。
しかし1審国選弁護人の地位は最長でも控訴期間である14日間までしかありません。そうすると控訴保釈の申請中に国選弁護人の地位が失われて、申請を遂行できなくなったり、保釈金を納める地位でなくなったりする可能性があります。少なくとも、控訴審終結後の返還されてくる保釈金を受け取る立場ではなくなっていることがほとんどです。そうした事情からすると、1審国選弁護人が控訴保釈に応じることは不相当であると考えられるため、原則として断るべきでしょう。
【結論】
できること、できないことをはっきりさせよう。刑事弁護は職務範囲では実現できないこともあると割り切るしかない場合もあります。
※上記は国選弁護人における一般的な考え方を書籍や弁護士の私見に基づいて作成したものです。
【弁護士の解答】
被告人又は被疑者の利害が相反しないときは、同一の弁護人に数人の弁護をさせることができます(刑訴法規則29条5項)
【 利益相反が判明したときの対応】
両方を辞任または解任するのが普通の刑弁の倫理であるとの意見がありますが、当該内容は十分に確立していません。 実務上は、私選でも「共犯同時受任」「利益相反判明後の1名弁護継続」が少なからず存在しています。
【参考文献】
後藤貞人「共犯弁護と利害対立」季刊刑事弁護22号
日弁連刑事弁護センター「刑事弁護ガイドライン(仮称)Q&A」
刑事訴訟法規則
(国選弁護人の選任)
第二十九条 法の規定に基づいて裁判所又は裁判長が付すべき弁護人は、裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内に在る弁護士会に所属する弁護士の中から裁判長がこれを選任しなければならない。ただし、その管轄区域内に選任すべき事件について弁護人としての活動をすることのできる弁護士がないときその他やむを得ない事情があるときは、これに隣接する他の地方裁判所の管轄区域内に在る弁護士会に所属する弁護士その他適当な弁護士の中からこれを選任することができる。
2 前項の規定は、法の規定に基づいて裁判官が弁護人を付する場合について準用する。
3 第一項の規定にかかわらず、控訴裁判所が弁護人を付する場合であつて、控訴審の審理のため特に必要があると認めるときは、裁判長は、原審における弁護人(法の規定に基づいて裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付したものに限る。)であつた弁護士を弁護人に選任することができる。
4 前項の規定は、上告裁判所が弁護人を付する場合について準用する。
5 被告人又は被疑者の利害が相反しないときは、同一の弁護人に数人の弁護をさせることができる。
【保釈の種類】
1 権利保釈(刑訴法89条)
第89条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。 一 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。 二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。 三 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。 四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。 六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
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2 裁量保釈(刑訴法90条)
第90条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
3 義務的保釈(刑訴法91条)
第91条 勾留による拘禁が不当に長くなつたときは、裁判所は、第88条に規定する者の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない。
第2 保釈保証金の相場
1 最低で150万円、通常200万円といわれています。
2 ただし、被告人の資力や事案の性質によって、増減します。
第3 保釈請求の方式
保釈請求は、口頭・書面のいずれでも可能とされています(刑訴法規則296条1項)。もっとも、実務上は、書面で行うのが通常です。
第4 保釈請求書の提出先
- 第1回公判前の場合、令状担当裁判官に提出します。
- 第1回公判後の場合、公判係に提出します(刑訴法280条、刑訴法規則187条)
第1回公判とは、実務上、冒頭手続き、とくに被告事件に対する陳述(刑訴法291条3項)が終了する段階までを指すと考えられています。
第5 検察官意見書の閲覧・謄写の根拠
保釈請求においては検察官意見書が裁判官に大きな影響を与えます。
検察官意見書は、訴訟記録に編綴されるため、閲覧・謄写をすることができます(刑訴法40条)。
第6 保釈許可決定に対して検察官が準抗告してきた場合の対処方法
準抗告申立書を閲覧・謄写し、反論書面を裁判所に提出する。
第7 保釈保証金の還付
一審で、無罪、執行猶予、実刑判決等の言渡しがあったとき、没取されなかった保釈保証金は還付されます(刑訴規則91条1項、刑訴法343条、345条など)。
第8 裁量保釈の意義
1 裁量保釈は、裁判所が「適当と認めるとき」に職権によって許可されます(刑訴法90条)。
2 要件
裁判所が「適当と認めるとき」とは、実務上、被告人の釈放を相当とする特別の事情がある場合を指すと理解されています。具体的には、
1.事件の軽重 2.事案の性質・内容 3.犯情 4.被告人の性格 5.経歴 6.行状 7.前科・前歴 8.家族関係 9.健康状態 10.審理の状況 11.勾留期間 12.身元引受人の存在 13.身元引受人との関係 14.被告人の職業 |
などといった諸事情を考慮し、保釈の必要性・相当性がある場合に、釈放を相当とする特別の事情があるものと考えています。
3 ポイント
1 判決に執行猶予が付されることが見込まれるか
実刑が見込まれる場合であっても、実刑期間が長期と思われる場合には、賃貸借契約の解除や会社の業務関係の引き継ぎなどといった、身辺整理のために保釈が必要であることを主張することが有用。
2 保釈の必要性(保釈されないことに伴う不利益)の程度
(1)被告人の防御権に関連する場合
- 弁護人との打ち合わせの重要性
- 被告人自身の現場検証の必要性
- 働いて金員を準備する
- 親類縁者・知人からの借入れの必要性
- 被告人自らの謝罪
- 疾病などの治療の必要性
(2)社会的事情に関連する場合
- 欠勤により退職を余儀なくされる
- 被告人の健康状態の悪化
- 家族の健康状態
- 介護の要否
3 逃亡の可能性の程度
- 子どもが幼い
- 身元引受人との親密な関係性
- 被告人でなければできない仕事がある
4 その他保釈が相当である事情
身体拘束が裁判所や検察庁の都合から不当に長期間に及んでいる
第9 余罪と保釈との関係性
判例上、余罪の存在を権利保釈の除外事由の存否、あるいは裁量保釈の拒否についての判断の一資料とすることは許される(最三小決昭44/7/14)。罪証隠滅の対象として余罪に関する証拠を挙げることは許されないが、余罪の存在から公訴事実に関する証拠について証拠隠滅の疑いがあると推知することが許されるという意味合いである。
第10 保釈請求の際に提出できる証拠とは
証拠能力が不要であるため、いかなる資料であっても添付できる。
第11 保釈却下決定に対する不服申立手続きとは
- 第1回公判前では管轄地方裁判所に対する準抗告(刑訴法429条1項2号、280条)
- 第1回公判後は、高等裁判所に対する抗告(刑訴法419条、420条、裁判所法16条2号)。
- 準抗告審、抗告審の判断に対する不服申立ては、最高裁判所に対する特別抗告となる(刑訴法433条1項)。
なお、特別抗告について、抗告提起期間が5日間となっている(同条2項)。
第12 再度の保釈請求の実施時期
法律上、再度の保釈請求を制限する規定はない。証拠調べ終了後や、事情の変化があったときに、再度の保釈請求を行うことになる。
第13 再保釈について
一審で保釈されていた被告人が実刑判決を受けた場合、保釈の効力は執行するため、新たな保釈決定がない限り、被告人は判決言渡し直後に法廷から連れ去られて、そのまま収容されます(刑訴法343条、98条)。再保釈の場合、保釈保証金が1.5倍程度に増額されることが多い。
第1審の弁護人と控訴審の弁護人が異なる場合、第一審の弁護人が納付した保証金を充当する旨の申請書が必要である。
再保釈については、権利保釈の規定が適用されない(刑訴法344条)。
実務上、再保釈は、保釈の必要性を重視する裁判官が多い。
【弁護士の解答】以下のような流れになります。
- 1 被疑者が逮捕された。
・弁護人ノート、被疑者ノートの差入れ
・黙秘権、署名押印拒否権の説明
・被害者との示談交渉
・裁判所、検察官に勾留しないことを求める意見書提出 |
- 2 被疑者が勾留された。
・被害者との示談交渉
・誓約書、身元引受書の取得
・接見禁止解除
・勾留に対する準抗告
・検察官に対する不起訴、罰金を求める意見書提出 |
- 3 被疑者が起訴された。
- 4 被告人の裁判が行われる
- 5 被告人に判決が下る。
以上で第一審事件が終結となります。
【弁護士の解答】
最高裁判例は「刑事裁判における量刑は、被告人の性格、経歴及び犯罪の動機、目的、方法等すべての事情を考慮し」て行う旨判示しています(最大判昭和41年7月13日)。
具体的な要素では、犯罪事実等犯情とその他情状に分類できます。
〈犯罪事実等犯情の考慮要素〉
たとえば窃盗罪では、職業的な類型のほうが重く、一時的な出来心による窃盗とは罪の重さが異なります。また、ひったくりのような悪質な行動も罪を重くします。
たとえば殺人罪では、偶発的な激情、怨恨、保険金目的の順で罪が重くなります。手段方法の残虐さ、危険性、執拗さなども重要な量刑の要素です。
主犯か、同調して積極的に行動した者か、追随したに過ぎない者か、で違いが出ます。
- 5 犯罪の結果が、被害者、親族等の生活に及ぼす悪影響の程度
前科があることは順法精神の欠如を窺わせますし、同種前科があることは常習性、再犯の可能性を推知させます。最高裁は、立証対象ではない余罪から被告人の常習性を推知することを許容しています(最大判昭和41年7月13日)。
〈その他情状〉
- 1 被告人の生い立ちが凄惨であったこと等、犯行の背景事情
- 2 被害弁償、示談、被害者の宥恕
- 3 被告人の反省の程度
- 4 再犯の危険にかかわる病気の治療見込み
- 5 生活環境の改善(親族の監督、支援体制)
- 6 その他
※上記は犯情に比べると影響力は小さく、微調整程度であるが、執行猶予の可能性のある場合には一定の効果がある。
【弁護士の解答】
1 誓約書について
- 1 身元引受人による監督に応じること
- 2 出頭に応じること
- 3 被害者に連絡しないこと
- 4 関係者に連絡しないこと
- 5 その他本件の特殊事情
2 謝罪文について
なるべく被疑者自身の言葉で書いてもらう。ただし弁護人からある程度考えるきっかけを与えることも有用。
【証人尋問の異議の条文・定義】
刑訴法309条1項に基づく証拠調べに対する異議です。
【異議の種類(17類型)(刑訴法規則199の3~13)】
- 1 関連性のない尋問
- 2 誘導尋問
- 3 相当でない誘導尋問
- 4 誤導尋問
- 5 要約不適切な尋問
- 6 前提誤認の尋問
- 7 主尋問の範囲外の反対尋問
- 8 反対尋問の範囲外の再主尋問
- 9 個別的ではない尋問
- 10 具体的でない尋問
- 11 威嚇的な尋問
- 12 侮辱的な尋問
- 13 重複尋問
- 14 意見を求める尋問
- 15 議論にわたる尋問
- 16 電文供述を求める尋問
- 17 仮定に基づく尋問
【頻出する異議】
- 1 関連性・必要性がない
- 2 誤導
- 3 要約が不適切
- 4 主尋問の範囲外
- 5 具体的でない
- 6 重複
- 7 意見を求めてくる
- 8 仮定に基づく
- 9 議論にわたっている
【異議をしなかった場合の効果】
違法又は不当な尋問であっても、時期に遅れれば、異議申し立ては却下され(刑訴法規則205の4)、それに対してなされた証言は、排除決定のない限りそのまま証拠となるので、異議は重要です。
伝聞証言についても、異議を述べないと、黙示の同意があるとされ、責問権の放棄によって瑕疵が治癒されたとみなされます(最決昭和59年2月29日)。
【異議をした場合の効果】
刑訴法309条に基づく異議申立て及びその理由、裁判所の決定は後半調書の必要的記載事項です(刑訴法規則44条Ⅰ⑭㉛)
異議が却下されても、控訴の際に訴訟手続き上の法定違反を理由に再度争うことができます。控訴審を見据えて、必要な異議は申し立てておくことが重要です。
【異議申立てのポイント】
とにかく違和感を覚えたら、すぐに「異議あり」と述べることです(刑訴法規則205の2)。理由はそのあとで考えて構いません。
【参考条文】
刑訴法
第三百九条 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。
○2 検察官、被告人又は弁護人は、前項に規定する場合の外、裁判長の処分に対して異議を申し立てることができる。
○3 裁判所は、前二項の申立について決定をしなければならない。
刑事訴訟法規則
(主尋問)
第百九十九条の三 主尋問は、立証すべき事項及びこれに関連する事項について行う。
2 主尋問においては、証人の供述の証明力を争うために必要な事項についても尋問することができる。
3 主尋問においては、誘導尋問をしてはならない。ただし、次の場合には、誘導尋問をすることができる。
一 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先だつて明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき。
二 訴訟関係人に争のないことが明らかな事項に関するとき。
三 証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるとき。
四 証人が主尋問者に対して敵意又は反感を示すとき。
五 証人が証言を避けようとする事項に関するとき。
六 証人が前の供述と相反するか又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき。
七 その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき。
4 誘導尋問をするについては、書面の朗読その他証人の供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法を避けるように注意しなければならない。
5 裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる。
(反対尋問)
第百九十九条の四 反対尋問は、主尋問に現われた事項及びこれに関連する事項並びに証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行う。
2 反対尋問は、特段の事情のない限り、主尋問終了後直ちに行わなければならない。
3 反対尋問においては、必要があるときは、誘導尋問をすることができる。
4 裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる。
(反対尋問の機会における新たな事項の尋問)
第百九十九条の五 証人の尋問を請求した者の相手方は、裁判長の許可を受けたときは、反対尋問の機会に、自己の主張を支持する新たな事項についても尋問することができる。
2 前項の規定による尋問は、同項の事項についての主尋問とみなす。
(供述の証明力を争うために必要な事項の尋問)
第百九十九条の六 証人の供述の証明力を争うために必要な事項の尋問は、証人の観察、記憶又は表現の正確性等証言の信用性に関する事項及び証人の利害関係、偏見、予断等証人の信用性に関する事項について行う。ただし、みだりに証人の名誉を害する事項に及んではならない。
(再主尋問)
第百九十九条の七 再主尋問は、反対尋問に現われた事項及びこれに関連する事項について行う。
2 再主尋問については、主尋問の例による。
3 第百九十九条の五の規定は、再主尋問の場合に準用する。
(補充尋問)
第百九十九条の八 裁判長又は陪席の裁判官がまず証人を尋問した後にする訴訟関係人の尋問については、証人の尋問を請求した者、相手方の区別に従い、前六条の規定を準用する。
(職権による証人の補充尋問)
第百九十九条の九 裁判所が職権で証人を取り調べる場合において、裁判長又は陪席の裁判官が尋問した後、訴訟関係人が尋問するときは、反対尋問の例による。
(書面又は物の提示)
第百九十九条の十 訴訟関係人は、書面又は物に関しその成立、同一性その他これに準ずる事項について証人を尋問する場合において必要があるときは、その書面又は物を示すことができる。
2 前項の書面又は物が証拠調を終つたものでないときは、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。ただし、相手方に異議がないときは、この限りでない。
(記憶喚起のための書面等の提示)
第百九十九条の十一 訴訟関係人は、証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、書面(供述を録取した書面を除く。)又は物を示して尋問することができる。
2 前項の規定による尋問については、書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければならない。
3 第一項の場合には、前条第二項の規定を準用する。
(図面等の利用)
第百九十九条の十二 訴訟関係人は、証人の供述を明確にするため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、図面、写真、模型、装置等を利用して尋問することができる。
2 前項の場合には、第百九十九条の十第二項の規定を準用する。
(証人尋問の方法)
第百九十九条の十三 訴訟関係人は、証人を尋問するに当たつては、できる限り個別的かつ具体的で簡潔な尋問によらなければならない。
2 訴訟関係人は、次に掲げる尋問をしてはならない。ただし、第二号から第四号までの尋問については、正当な理由がある場合は、この限りでない。
一 威嚇的又は侮辱的な尋問
二 すでにした尋問と重複する尋問
三 意見を求め又は(または) : or又は議論にわたる尋問
四 証人が直接経験しなかつた事実についての尋問
(関連性の明示)
第百九十九条の十四 訴訟関係人は、立証すべき事項又は主尋問若しくは反対尋問に現れた事項に関連する事項について尋問する場合には、その関連性が明らかになるような尋問をすることその他の方法により、裁判所にその関連性を明らかにしなければならない。
2 証人の観察、記憶若しくは表現の正確性その他の証言の信用性に関連する事項又は証人の利害関係、偏見、予断その他の証人の信用性に関連する事項について尋問する場合も、前項と同様とする。
(異議申立の事由)
第二百五条 法第三百九条第一項の異議の申立は、法令の違反があること又は相当でないことを理由としてこれをすることができる。但し、証拠調に関する決定に対しては、相当でないことを理由としてこれをすることはできない。
2 法第三百九条第二項の異議の申立は、法令の違反があることを理由とする場合に限りこれをすることができる。
(異議申立の方式、時期)
第二百五条の二 異議の申立は、個々の行為、処分又は決定ごとに、簡潔にその理由を示して、直ちにしなければならない。
(異議申立に対する決定の時期)
第二百五条の三 異議の申立については、遅滞なく決定をしなければならない。
(異議申立が不適法な場合の決定)
第二百五条の四 時機に遅れてされた異議の申立、訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな異議の申立、その他不適法な異議の申立は、決定で却下しなければならない。但し、時機に遅れてされた異議の申立については、その申し立てた事項が重要であつてこれに対する判断を示すことが相当であると認めるときは、時機に遅れたことを理由としてこれを却下してはならない。
(異議申立が理由のない場合の決定)
第二百五条の五 異議の申立を理由がないと認めるときは、決定で棄却しなければならない。
公判調書の記載要件)
第四十四条 公判調書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 被告事件名及び被告人の氏名
二 公判をした裁判所及び年月日
三 裁判所法第六十九条第二項の規定により他の場所で法廷を開いたときは、その場所
四 裁判官及び裁判所書記官の官氏名
五 検察官の官氏名
六 出頭した被告人、弁護人、代理人及び補佐人の氏名
七 裁判長が第百八十七条の四の規定による告知をしたこと。
八 出席した被害者参加人及びその委託を受けた弁護士の氏名
九 法第三百十六条の三十九第一項に規定する措置を採つたこと並びに被害者参加人に付き添つた者の氏名及びその者と被害者参加人との関係
十 法第三百十六条の三十九第四項又は第五項に規定する措置を採つたこと。
十一 公開を禁じたこと及びその理由
十二 裁判長が被告人を退廷させる等法廷における秩序維持のための処分をしたこと。
十三 法第二百九十一条第三項の機会にした被告人及び弁護人の被告事件についての陳述
十四 証拠調べの請求その他の申立て
十五 証拠と証明すべき事実との関係(証拠の標目自体によつて明らかである場合を除く。)
十六 取調べを請求する証拠が法第三百二十八条の証拠であるときはその旨
十七 法第三百九条の異議の申立て及びその理由
十八 主任弁護人の指定を変更する旨の申述
十九 被告人に対する質問及びその供述
二十 出頭した証人、鑑定人、通訳人及び翻訳人の氏名
二十一 証人に宣誓をさせなかつたこと及びその事由
二十二 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問及び供述
二十三 証人その他の者が宣誓、証言等を拒んだこと及びその事由
二十四 法第百五十七条の二第一項に規定する措置を採つたこと並びに証人に付き添つた者の氏名及びその者と証人との関係
二十五 法第百五十七条の三に規定する措置を採つたこと。
二十六 法第百五十七条の四第一項に規定する方法により証人尋問を行つたこと。
二十七 法第百五十七条の四第二項の規定により証人の同意を得てその尋問及び供述並びにその状況を記録媒体に記録したこと並びにその記録媒体の種類及び数量
二十八 裁判長が第二百二条の処置をしたこと。
二十九 法第三百二十六条の同意
三十 取り調べた証拠の標目及びその取調べの順序
三十一 公判廷においてした検証及び押収
三十二 法第三百十六条の三十一の手続をしたこと。
三十三 法第三百三十五条第二項の主張
三十四 訴因又は罰条の追加、撤回又は変更に関する事項(起訴状の訂正に関する事項を含む。)
三十五 法第二百九十二条の二第一項の規定により意見を陳述した者の氏名
三十六 前号に規定する者が陳述した意見の要旨
三十七 法第二百九十二条の二第六項において準用する法第百五十七条の二第一項に規定する措置を採つたこと並びに第三十五号に規定する者に付き添つた者の氏名及びその者と同号に規定する者との関係
三十八 法第二百九十二条の二第六項において準用する法第百五十七条の三に規定する措置を採つたこと。
三十九 法第二百九十二条の二第六項において準用する法第百五十七条の四第一項に規定する方法により法第二百九十二条の二第一項の規定による意見の陳述をさせたこと。
四十 法第二百九十二条の二第八項の規定による手続をしたこと。
四十一 証拠調べが終わつた後に陳述した検察官、被告人及び弁護人の意見の要旨
四十二 法第三百十六条の三十八第一項の規定により陳述した被害者参加人又はその委託を受けた弁護士の意見の要旨
四十三 被告人又は弁護人の最終陳述の要旨
四十四 判決の宣告をしたこと。
四十五 決定及び命令。ただし、次に掲げるものを除く。
イ 被告人又は弁護人の冒頭陳述の許可(第百九十八条)
ロ 証拠調べの範囲、順序及び方法を定め、又は変更する決定(法第二百九十七条)
ハ 被告人の退廷の許可(法第二百八十八条)
ニ 主任弁護人及び副主任弁護人以外の弁護人の申立て、請求、質問等の許可(第二十五条)
ホ 証拠決定についての提示命令(第百九十二条)
ヘ 速記、録音、撮影等の許可(第四十七条及び第二百十五条)
ト 証人の尋問及び供述並びに(ならびに) : and / A及びB、C並びにD並びにその状況を記録媒体に記録する旨の決定(法第百五十七条の四第二項)
チ 証拠書類又は証拠物の謄本の提出の許可(法第三百十条)
四十六 公判手続の更新をしたときは、その旨及び次に掲げる事項
イ 被告事件について被告人及び弁護人が前と異なる陳述をしたときは、その陳述
ロ 取り調べない旨の決定をした書面及び物
2 前項に掲げる事項以外の事項であつても、公判期日における訴訟手続中裁判長が訴訟関係人の請求により又は職権で記載を命じた事項は、これを公判調書に記載しなければならない。
【弁護士の解答】
否認事件においては被告人に事件記録の写しを裁判前に差し入れるべきである。そのうえで、どの証人を尋問するか、どの証人は調書を同意して証人尋問を行わないかを決定する。被告人が事件記録を見ずにこの決定を下すことは難しい。
【注意点】
被告人が事件記録を悪用するおそれがある。したがって、刑事弁護人としては、被告人が事件記録を多目的に流用しないように配慮することが必要である。
事件記録を差し入れる前に、被告人に対して、「コピーを差し入れるのは被告人と裁判の打ち合わせをするためであり、他目的に流用することは法に触れるおそれがある。弁護人と相談することなく調書の内容を詳細に引用する手紙を第三者に出すことも証拠隠滅の教唆につながる可能性があるため控えたほうがよい」と申し添えておくことが重要です。
【弁護士の解答】
証拠調べの請求は、公判前整理手続きに付された事件でない場合は公判期日において行うのが原則です。
【例外】
公判前整理手続に付された事件を除き、第1回公判以降であれば、公判期日前であっても証拠調べ請求ができます。なお、ここでいう「第1回公判以降」とは、検察官の冒頭陳述が終わるまでをいいます(刑訴法規則188条)。
【参考条文】
刑訴法規則
(証拠調べの請求の時期)
第百八十八条 証拠調べの請求(せいきゅう) : request, demand, claim請求は、公判期日前にも、これをすることができる。ただし、公判前整理手続において行う場合を除き、第一回の公判期日前は、この限りでない。
【捜査機関による任意出頭要請の法的根拠】
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる(刑訴法198条1項)。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる(刑訴法198条1項但書き)。
【捜査機関が任意出頭を求める理由として考えられること】
1 |
捜査機関が未だ通常逮捕の要件を具備していないため |
2 |
すでに通常逮捕の要件を具備しているが、逮捕から始まる身体拘束に対する期間制限(48時間以内など)の起算点をできるだけ遅くし、その間に任意出頭の形式をとりつつ事実上の身体拘束下での取調べを行うため |
3 |
捜査機関において既に逮捕状を取っているものの、任意に出頭して取り調べに応じさえすれば、供述内容次第ではあえて逮捕という強制捜査に訴える必要がないと考えている場合 |
4 |
もともと捜査機関において逮捕の必要性がなく、いわゆる在宅事件とする方針のもと出頭要求が出されている場合 |
【任意出頭をする際に注意すること】
捜査機関と連絡を取り、出頭要請の目的を把握し、強制捜査を回避することに注力することです。
【参考人取調べとは何か】
出頭要請では、被疑者としてなのか、参考人としてなのか、の区別がある。参考人であれば、原則として逮捕されるおそれはないが、捜査機関において決め手がないのでとりあえず形式的に参考人として呼び出す場合があるので、実態を誤りなく把握することが大事です。
【不出頭の効果】
実務上は、3回程度捜査官の任意出頭要請に応じなかった場合には、逃亡又は罪証隠滅のおそれが推定できるという考え方が定着しています。逃亡又は罪証隠滅のおそれがある場合、逮捕される可能性が高まります。
【不出頭を選択する際の注意点】
1 |
具体的な理由を示した書面を作成し、捜査機関に交付することです。 |
2 |
弁護人が責任をもって出頭日を調整することを約束し、捜査に支障がなく、強制捜査が必要ないことを立証します。 |
【出頭した際の注意点】
1 |
被疑者に黙秘権を理解してもらうこと |
2 |
弁護人としては、捜査機関に対し、取り調べの時間制限や、2時間ごとの弁護人との相談・連絡の保証を求めることが重要です。 |
3 |
逮捕・勾留を免れるため、あらかじめ自白調書を作成し、捜査機関に交付することも考えられます。 |
被疑者の職業、家庭の状況、交友関係などの有利な事情をもあわせて書面化しておき、逮捕・勾留の必要性がないことを立証することも肝要でしょう。
【参考条文】
刑訴法
第百九十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
○2 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
○3 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
○4 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
○5 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
○3 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。
【弁護士の解答】
1 情状に関する有利な事実をできる限り収集する。
逮捕に続く勾留をされないために以下の点を被疑者から聴取します。
- 被疑者の職業
- 社会的立場
- 収入
- 家族関係
- 身体を拘束されることによる不都合
- 身元引受人の有無や適格性等
2 誤認逮捕であるかを確認する
3 示談交渉
4 現場調査
【違法逮捕への抵抗】
- 1 検察官への釈放の申し入れ
- 2 逮捕が違法であることを理由に、裁判官への勾留却下意見
- 3 勾留された場合には、勾留決定に対する準抗告
【職務質問の要件(警職法2条1項)】
- 不審事由があること
- 質問の実効性を担保する限度での実力行使としての停止は許される
- 停止は不審事由の解明にとどめ、「一時の」停止・質問によって逮捕をするに足りる要件が具備されたと判断された場合には、刑事訴訟法に定める逮捕手続に入り、その判断ができない場合には、直ちに解放しなければならない。
- 質問に対する答弁は、まったくの任意のものでなければならない。
【職務質問で許される有形力の行使の程度とは】
判例は、対象者の嫌疑、対象者の対応、侵害された対象者の利益とその程度を考慮して、職務質問を行うため停止される方法として必要かつ相当な行為といえるかを判断しています(最高裁決定平成6年9月16日)。
参考条文
警察官職務執行法
(質問)
第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
4 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。
【弁護士の解答】
任意同行は、職務質問に際し、被質問者のプライバシー保護、あるいは交通の妨害になる場合に限定して行われます(警職法2条2項)。それ以外の任意に名を借りた身体拘束は、逮捕手続を潜脱するものとして違法です。
参考条文
警察官職務執行法
(質問)
第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
4 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。
1 |
競合弁護士の存否の把握をする |
2 |
委任契約は親族ではなく被疑者と行うこと。なぜなら親族が契約主体(依頼者)となった場合、被疑者の利益にならない過度の介入のおそれがある。 |
3 |
契約書には、釈放、不立件・不起訴、罰金落ち、保釈、示談、執行猶予付き判決、無罪判決など、可能な限りの事態を想定した内容を盛り込むこと。別件逮捕もあるため、受任範囲を明確にすることも必要です。 |
【弁護士の解答】
弁護士職務基本規程49条2項では、国選弁護人が被告人その他の関係者に対して、自分をその事件の私選弁護人に選任するように「働きかけること」が禁止されています。したがって、この条文自体は、国選弁護人から私選弁護人への切り替え自体は禁止していないと解されています。
しかし実際のところ、どちらが働きかけをしたかについて必ずしも明確にならないため、消極的になるべきといえます。
【弁護士の解答】
任意出頭の判断は慎重さが求められます。任意出頭をして逮捕を回避しようとしたが、逆に出頭したがために逮捕されることもあります。現在の依頼者の状況からして、捜査がどのように進んでいるのか、あるいは捜査されていないのか、出頭することでどのようなメリットを得られるのか等を見極める必要があります。
【見極めのポイント】
- 犯行直後の被害者の様子
- 被疑者の逃走の態様
- 事故現場周辺の防犯カメラの有無
- 遺留品の有無
【逮捕を任意出頭をする際に行うべきこと】
- 身元引受人の確保・できれば同行すること
- 証拠物を持参すること
- 自白調書をつくること
- 弁護士による逮捕回避意見書の準備
1 |
逮捕の必要性がないこと(刑事訴訟法規則143条の2) |
2 |
逃亡しないこと 身元引受書・誓約書 |
3 |
逮捕されることの不利益性 |
4 |
罪証隠滅のおそれがないこと |
- 迅速な出頭…逮捕令状が発布された後では、逮捕は免れないため、その前に出頭する必要があります。
【任意出頭先】
犯行現場を管轄とする警察署です。
【観護措置の要件】
審判を行うため必要があるとき(少年法17条1項)
【観護措置の必要性とは】
- 調査・審判及び保護処分の執行を円滑にするための身柄確保の必要性
- 少年の緊急保護のための暫定的身柄確保の必要性
- 収容して心身鑑別を行う必要性