Q1.従業員はいつから合法的に退職することができますか?

【弁護士の解答】

会社と合意した場合には即日退職できます(合意退職)。

会社との合意がないときでも従業員は以下のとおり退職することができます。


 

雇用期間の定めのない労働契約の場合

解約申入れの日から2週間を経過することで退職することができます。(民法627条1項)。なお、会社側から解雇を申し入れる場合には、別の規定があるため、注意が必要です。

有期雇用の場合

1年を超える期間を雇用期間としているとき
(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除く。)
働き始めて1年を経過した後は、いつでも退職できます(労働基準法137条)
雇用期間が1年以内であるが、雇用期間が自動更新された場合 いつでも退職できます(民法629条)
自動更新されていない場合 「やむを得ない事由」があるときに限り、ただちに退職できます(民法628条)
「やむを得ない事由」とは、病気・怪我・妊娠・出産・育児・介護などによって長期間働くことができない場合や、賃金の未払いや会社の労働基準法違反などによって働くことが困難な場合が含まれると考えられます。

【参考条文】

(期間の定めのある雇用の解除)

第六百二十六条 雇用の期間が五年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。

2 前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは三箇月前、労働者であるときは二週間前に、その予告をしなければならない。

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。


(やむを得ない事由による雇用の解除)

第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。


(雇用の更新の推定等)

第六百二十九条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。

2 従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。


(雇用の解除の効力)

第六百三十条 第六百二十条の規定は、雇用について準用する。


(賃貸借の解除の効力)

第六百二十条 賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

Q2.就業規則に「退職する場合、3ヶ月前までに申し出なければならない」と規定されているとき、その期間を待たないと退職できませんか?

【弁護士の解答】

待つ必要はありません。民法の規定に反する就業規則は原則無効となる可能性が高いです(労働契約法13条)。無期雇用社員(正社員)であれば、原則として退職申出から2週間で退職できます。ただし、有期契約社員の場合は事案によるので注意が必要です。

【参考条文】

労働契約法

(法令及び労働協約と就業規則との関係)

第十三条 就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。

Q3.退職理由を会社などに伝える義務はありますか?

【弁護士の解答】

ありません。個人には職業選択の自由、退職の自由が憲法上認められています。一身上の都合という以上に細かい話をする必要はありませんし、説明会を開催しなければいけないこともありません。

Q4.退職時、仕事の引き継ぎはどこまでする義務がありますか?

【弁護士の解答】

退職は自由です。しかし退職の際に、あなたが引き継ぎを怠ることで会社の業務に大きな支障が出ると容易に想像できるのにそれをしなかったとき、あなたは信義誠実に対応しなかったことを理由に損害賠償を受けることがありえます。したがって最低限の仕事の引き継ぎはする義務があります。

【仕事の引き継ぎ義務の範囲】

あなただけしか知らない業務に関する情報については、確実に会社に知らせてください。また、取引先の交渉経過や効率的な対応方法なども、引き継ぎが必要と考えておくとよいです。

【引き継ぎの方法】

口頭でもかまいませんが、あとで伝達内容で会社と揉めないためにも、なるべく文書形式にすることが望ましいでしょう。後任者が定まっていない場合でも、退職の自由があるため、法律上許される退職日が来た場合、引き継ぎ文書を残して会社を去ることに問題はありません。

Q5.業務を引き継ぐ相手が見つからない場合、退職はできませんか?

【弁護士の解答】

いいえ、退職できます。退職は自由です。引き継ぎのための文書を残すなどフォローしておくことで、引き継ぎ相手がまだいない状況でも会社を去ることに問題はありません。引き継ぎ相手がいないのは会社のせいであって、あなたの責任ではないからです。引き継ぎメモを作成する場合、次の内容を記載することが考えられます。

  • 担当している案件に関する、先方とのやりとり状況
  • 担当している案件に関する、資料・データの所在
  • 会社からの貸与品があれば、その所在
  • 会社に残してきた私物の取り扱い(廃棄を求めるか)
  • その他自分にしかわからない事項や会社に伝えておくべき事項

 

Q6.会社に退職を告げると、「損害賠償を請求する」と脅されています。どうしたらよいですか?

【弁護士の解答】

退職は自由です。民法などの規定に従って退職の意思表示をした場合、退職そのもので損害賠償をする義務が生じることはありません。業務に穴が空いた、などと言われても、それは会社が代替人事を怠ったことに責任があります。しかし、たとえば退職にあたって、重要な情報を引き継がなかった、横領・背任をした、会社の秘密情報を漏洩したなどのときには、賠償問題に発展しかねません。とくに、重要情報の引き継ぎは揉めかねない問題であるため、注意しましょう。

Q7.退職は認めないと会社に言われて困っています。話し合いにならない場合、どうしたらいいですか?

【弁護士の解答】

話し合いで退職することを「合意退職」といいます。この方法は円満ですが、必ず退職できるわけではないことが難点です。あなたが会社にとって重要な役職であるほど、会社はあなたを手放すまいと強硬な姿勢に打って出ることが予想されます。そうしたときには、一方的な意思表示による「辞職」を選択するしかありません。「辞職」の方法は、無期雇用契約である正社員の場合は、退職の意思表示をして2週間経過するだけです。「会社の了解は必要ありません。「退職届」「辞職届」などと題して文書を提出するとよいでしょう。

【会社が「退職届」を受け取らない場合の対応】

 配達証明付きの内容証明郵便を会社に送付することで対処できます。文書を送付したことが履歴に残ることが大事であり、LINE、メール、FAXなどを利用することも考えられます。

Q8.退職をする際の心構えとは?

【弁護士の解答】

退職は自由です。法律に則った退職あれば会社に迷惑が出たとしても責任を負うことはありません。しかしだからといって会社に多大な迷惑をかけていいわけでもないでしょう。したがって会社と調整して譲歩できるところは譲歩する気持ちを持っておいてほうが、後々のトラブル回避につながります。もっとも、それを逆手にとっていつまでも退職させない会社もあるので、そのような会社であると判明したときには、毅然とした態度を示すことも肝要です。あくまで退職は自由ということが原点であることも忘れないでください。