Q1.出来高払い(例:歩合給制)における、基礎賃金や残業代の計算方法とは?

【弁護士の解答】

出来高払いによって計算された賃金総額を当該賃金の賃金算定期間における「総労働時間数」で除して計算し(労基則19条1項6号)、賃金の一部が歩合給という場合は、固定給部分と歩合給部分に分けて基礎賃金を計算します(労基則19条1項7号)。

出来高払いの場合に残業代を算出するにあたっては、残業時間に対する時間当たりの賃金(つまり、1.0部分)は支払われており、残業代として請求できるのは、基礎賃金に割増率(例えば、時間外労働であれば0.25)を常時、それに時間外労働時間数を乗じて算定する部分のみです(平成11・3・31基発168号)。これは歩合給の対象となる成果は、実労働時間全体によって生じているという考え方に基づくものと思われます。

【計算例】

月給制で、固定給20万円の労働者が、当該月に歩合給5万円を支給される事案。月所定労働時間数170時間、当該月の総労働時間数200時間とすると、労働者の当該月の時間外労働時間数は30時間となります。

(固定給部分)
基礎賃金(時間単価)
(固定給20万円÷月所定労働時間170時間)×残業時間(総労働時間数-月所定労働時間数)30時間×割増率1.25=44,100円
(歩合給部分)
歩合部分の基礎賃金(時間単価)
(5万円÷月の総労働時間数200時間)×残業時間(総労働時間数-月所定労働時間数)30時間×割増率0.25=1,875円

 

Q2.基礎賃金の対象となるものとは?

【対象となるもの】

  • 基本給
  • 住宅手当(住宅費用の形態ごとに一定額が支給されるもの。例:持ち家4万円・家賃2万円など)


【対象とならないもの】

同一時間の時間外労働に対する割増賃金額が労働内容・量と無関係な労働者の個人的事情で変わってくるものは不合理であるため除外します。「通常の労働時間又は労働日の賃金」でないものも除外します(労基法37条5項、労基則21条3項)。

  • 通勤手当(距離に応じて段階的に支給されるもの)
  • 家族手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 賞与(一カ月を超える期間ごとに支払われる賃金・労基則8条)

 

【参考条文】

労働基準法(時間外、休日及び深夜の割増賃金)

第37条

1. 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

2. 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。

3. 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

4. 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

5. 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

(労基則)

第八条 法第二十四条第二項但書の規定による臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるものは次に掲げるものとする。

一 一箇月を超える期間の出勤成績によつて支給される精勤手当

二 一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当

三 一箇月を超える期間にわたる事由によつて算定される奨励加給又は能率手当

第二十一条 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。

一 別居手当

二 子女教育手当

三 住宅手当

四 臨時に支払われた賃金

五 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

Q3.月平均所定労働時間数の算出方法とは?

【弁護士の解答】

まず年間所定休日日数を算出します。各年のカレンダーを閲覧できるHPなどを利用すると便利です。

【計算式】

(365日-年間所定休日日数)×1日労働時間7時間÷12か月=???

(たとえば140時間ぐらい)

Q4.時間単価の算出方法とは?

【弁護士の解答】

基礎賃金(基本給+住宅手当+α)÷月平均所定労働時間=???

(たとえば1500円ぐらい)

Q5.労働基準法上の割増率とは?

【賃金の割増率早見表】

時間外労働 25%
深夜労働
(22時~翌5時)
25%
休日労働 35%
時間外労働+深夜労働 50%
休日労働+深夜労働 60%

Q6.残業代の算出方法(計算式)は?

【弁護士の解答】

1 残業代=時間単価(A)×残業時間×割増率

2 時間単価(A)=月によって定められた賃金(例:基本給+α)÷月平均所定労働時間(B)

3 月平均所定労働時間(B)=年間所定労働時間数(C)÷12か月

4 年間所定労働時間数(C)=年間所定労働日数(D)×1日の所定労働時間

5 年間所定労働日数(D)=1年間の日数-年間所定休日数

5番から1番へと計算していきます。

Q7.付加金とはなんですか?

【定義】

付加金とは、労基法上支払いが命じられている金銭を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により裁判所が命じる未払い金と同一額の金銭のことです(労基法114条)。

【基準】

裁判所は、使用者による違法の程度・態様、労働者の不利益の性質・内容等を勘案して、支払義務の存否及び額を決定します(松山石油事件、大阪地判平成13・10・19)

【制限】

支払いを命じることができるのは、未払い割増賃金と同額までで、それを上回ることはできません。裁判所の命令によって支払い義務が発生する性質であるため、その命令前に使用者が上記の未払割増賃金等を支払うと、付加金の支払いを命じることはできません(細谷服装事件・最判昭和35・3・11)。

【付加金は訴訟物の価額に算入しない】

東京地方裁判所労働部においては、付加金を附帯請求として取り扱っており、訴訟物の価額に算入しない運用が定着しています(民訴法9条2項)。但し、地方によって取り扱いは異なり、大阪地裁や名古屋地裁では算入しています。

【付加金の対象となる金員】

  • 解雇予告手当(労基法第20条)
  • 休業手当(労基法第26条)
  • 割増賃金(労基法第37条・法外残業に対する割増賃金のみで、法内残業に対する賃金は対象にならない。)
  • 有給休暇中の賃金()労基法第39条7項)

労働審判では付加金請求はできません。なぜなら労働審判の判断主体は「裁判所」ではなく「労働審判委員会」だからです。

Q8.割増賃金の遅延損害金の計算方法とは?

【弁護士の解答】

相手が会社、商人の場合

「商行為によって生じた債務」のため、年利6%です(商法514条)。その余の場合は年利5%です。

退職した場合

労働者が退職した場合、退職の日の翌日から原則として年利14.6%となります(賃確法6条1項)。

【請求の趣旨記載例】

原告は被告に対して金○円及びこれに対する支払日の翌日から退職の日まで年6%、退職の日の翌日から支払済みまで年14.6%の遅延損害金を支払え

【参考条文】

賃金の支払の確保等に関する法律

(退職労働者の賃金に係る遅延利息)

第六条 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年十四・六パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。

2 前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。

賃金の支払の確保等に関する法律施行規則

(遅延利息に係るやむを得ない事由)

第六条 法第六条第二項の厚生労働省令で定める事由は、次に掲げるとおりとする。

一 天災地変

二 事業主が破産手続開始の決定を受け、又は賃金の支払の確保等に関する法律施行令(以下「令」という。)第二条第一項各号に掲げる事由のいずれかに該当することとなつたこと。

三 法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難であること。

四 支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争つていること。

五 その他前各号に掲げる事由に準ずる事由

Q9.付加金の遅延損害金とは?

【弁護士の解答】

付加金の遅延損害金は、民法所定の年5%です(民法404条)。

付加金請求権は、支払い命令によって生じますので、起算日は、判決確定日の翌日からです。

Q10.拘束時間、労働時間、休憩時間の関係性とは?

【弁護士の解答】

拘束時間=労働時間+休憩時間(労基法34条

・労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定するものではない(最判平成12年3月9日・三菱重工業長崎造船所事件)

休憩時間とは、使用者の作業場の指揮監督から離脱し、労働から解放され、労働者が自由に利用できる時間。

つまり拘束時間中は、労働時間か、休憩時間か、しか法律上は存在せず、グレーゾーンはありません。それゆえ裁判では微妙な判断を求められることがよくあります。

労働時間か否かでよく争いになるのは、手待ち時間、仮眠時間、自宅待機時間、出張中の移動時間、通勤時間、朝礼・準備行為の時間、後始末時間・持ち帰り残業時間、教育・研修時間、接待・会社行事・健康診断時間等があげられます。

これらが労働時間といえるか否かは、ケースバイケースです。

実務上は、

  • ①実態として作業に従事していた時間の割合
  • ②マニュアル等による業務指示の有無
  • ③労働時間と区別するための使用者からの配慮の有無

 

などの諸々の考慮要素から、「労働からの解放」の程度を判断して、当該時間が「使用者の指揮命令下に置かれている」か否かを評価し、労働時間該当性を判断しています。

 

Q11.管理監督者には残業代の支払いが不要とききますが、管理監督者とは?

 

【定義】

「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は秘密の事務を取り扱う者」は、労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しない、と定めています。(労働基準法41条2号)
 
しかしここでいう「管理監督者」は一般的な「管理職」とは異なり、法律上、その適用範囲はかなり狭いです(マクドナルド店長事件参照)。

・「管理監督者」とは、事業者に代わって労務管理を行う地位にあり、労働者の労働時間を決定し、労働時間に従った労働者の作業を監督する者をいいます。


・行政解釈では、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされ、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきとされています(昭和22・9・13発基17号、昭和63・3・14発基150号)

 

【適用除外となる条文】

1 労働時間
労働基準法32条ないし32条の5(労働時間)、36条(時間外労働についての協定)、40条(労働時間及び休憩の特例)、60条(年少者の労働時間の制限)
2 休憩
労働基準法34条(休憩)、40条(労働時間及び休憩の特例)
3 休日
労働基準法35条(休日)、33条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)、36条(休日労働についての協定)

 

【適用対象となる条文】

1 深夜割増賃金
深夜割増賃金に関する労基法37条4項
2 有給休暇
労働基準法39条
3 安全と健康管理を目的とする労働時間把握義務
労働安全衛生法66条の8.同規則52条の2

 

【管理監督者かを決める判断要素】

①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること
肩書等、役職の名称は重視しません。 実際の職務内容及び権限で判断します。
取締役として役員会に出席しているが、部門業務の進捗を報告する程度では非該当です。
(スタジオツインク事件(東京地裁平成23年10月25日))。  

新規採用面接に立ち会っていても、採否の決定権限が社長にあった場合には、労務管理(労働条件)に関する決定権の存在が否定されます。支店長の立場であっても、部下の人事考課や昇給決定、処分や解雇を含めた待遇決定に関する権限がないときも、管理監督者とはいえません。(ゲートウェイ21事件/東京地裁平成20年9月30日)。
部下にあたる職員がいない場合も、否定要素です。  

日本マクドナルド事件では、店長であっても、職務権限が店舗内の事項に限られ、企業全体の経営方針等への決定過程に関与していないことは否定要素です。具体的には、アルバイト採用・時給額の決定権限などがあっても、将来アシスタントマネージャーや店長に昇格する社員の採用権限がないことなどをもって、労務管理に関し、経営者と一体的立場にあったとは言い難いとしています。  

店舗運営の点では、勤務シフト決定、次年度損益計画の作成などに一定の裁量はあるものの、本社がブランドイメージ構築のために打ち出した店舗の営業時間の設定には事実上これに従うことを余儀なくされている、店舗独自メニュー開発や、原材料仕入れ先の自由な選定、商品価格の設定は予定されていない点なども考慮されている。

 

②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
タイムカードで管理されている、外出時には所在をホワイトボードなどに記載する必要があったこと、店長として固有業務を遂行するだけでなく、自らシフトマネージャーとして現場業務にも従事しなければならず、勤務体制上の必要性から、長時間の時間外労働を余儀なくされている状況は否定要素です。

 

③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇が与えられていること
役割に比して給与水準が不相応に低い場合には否定要素です。 給与支給総額が27万円前後から100万円前後に変動する場合でも、これが成績によって変動する歩合給制というべき場合には、管理監督者という地位に対する対価とみることができないと考えられます。

 

【近年の傾向】

  • 1.職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場であること
  • 2.部下に対する労務管理上の決定権限等につき一定の裁量権を有し、人事考課(人事考課をしたり、昇給決定したり、処分や解雇を含めた処遇決定に関する権限有している事)や機密事項に接している事
  • 4.管理職手当などで時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
  • 5.自己の出退勤を自ら決定する権限があること

 

以上の要件を満たすことが、管理監督者の条件と考えられています。