Q1.破産手続きの開始要件とは?

【弁護士の解答】

個人の場合、借金の「支払不能」が要件です。債務者が「支払を停止」したときは、支払不能にあるものと推定されます(破産法15条)。

【支払不能の定義】

債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます(同法2条11項)。

【法人の場合の要件】

債務者が法人である場合には、「支払不能」に加えて、「債務超過」が要件です。「債務超過」とは、債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいいます(破産法16条1項)。

Q2.債務整理にはどのような種類がありますか?

【弁護士の解答】

債務整理とは、個人の場合、おおむね、任意整理、個人再生、自己破産・免責手続きに分類されます。

任意整理とは、将来の利息を0円にしたうえで、3年から5年以内に借金を分割して弁済する手続きです。交渉による解決なので強制力はありません。また、溜まった遅延損害金の一部が話し合いによって免除されたりします。

個人再生とは、裁判所での手続き上で、債権者の多数の同意を得て、借金をおおむね1/5に減縮したうえで、3年から5年以内に分割して弁済する手続きです。失いたくない財産がある場合に用いられます。

自己破産・免責手続とは、裁判所での手続きで、債務者が所有している財産・資産のうち99万円を超える部分を債権者に支払ったうえで、残った借金の支払いの免除を受ける手続きです。債権者に対して強制力があります。支払不能の場合にこの手続きを用います。

Q3.会社が倒産したら、賃金はどうなるのでしょうか

【弁護士の解答】

未払賃金立替払制度があります。

未払賃金立替払制度とは、企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、未払賃金を一部立替払する制度です。

【支払われる条件】

  • 使用者が1年以上事業活動を行っていること
  • 倒産したこと

倒産した場合は以下の条件に分かれます。

  • 破産・特別清算・民事再生・会社更生等法律上の倒産をした場合は、破産管財人等に倒産の事実等を証明してもらう必要があります。
  • 中小企業について、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払い能力がない場合(事実上の倒産)は、労働基準監督署長の認定が必要となります。

また、労働者が、倒産について裁判所へ申立て等(上記、法律上の倒産の場合)又は、労働基準監督署への認定申請(上記、事実上の倒産の場合)が行われた日の6カ月の前の日から2年の間に退職したものであることが必要です。

【立替払を受けることができる人】

労働者は、未払賃金の額等について、法律上の倒産の場合には破産管財人等による証明を、事実上の倒産の場合には労働基準監督署長による確認を受けたうえで、独立行政法人労働者健康安全機構に立替払の請求を行います。

しかし、この請求は破産手続開始の決定等がなされた日又は、監督署長による認定日の翌日から起算して2年以内に行う必要があります。

【立替払の対象となる未払賃金】

労働者が退職した日の6カ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している定期賃金と退職手当のうち、未払となっているもの。ボーナスは立替払の対象とはなりません。加えて、未払賃金の総額が2万円未満の場合も対象とはなりません。

立替払をする額は、未払い賃金の額の8割です。ただし、退職時の年齢に応じて88~296万円の範囲で上限が設けられています。

まずは、最寄りの労働基準監督署に相談しましょう。

参考サイト:厚生労働省 未払賃金立替払制度の概要と実績

Q4.特別清算とはなんですか?

【弁護士の解答】

特別清算手続とは、親会社が子会社を清算する場合に、子会社に対する債権を無税償却する(子会社に対する債権について法人税法上損金算入が認められるようにし、子会社に対する債権放棄について寄付金課税されるのを回避する)目的等に利用されます。

子会社の清算目的で特別清算手続を行う場合、一般的には、子会社の債務のうち親会社に対するもの以外は全て親会社の資金で弁済し、子会社の財産は空(又は不良資産のみ)にしたうえで、親会社に対する債務については、協定や個別和解により親会社が債権放棄・債務免除を行うという方法がとられます。

特別清算手続を利用した場合、破産管財人に相当する者が選任されず、親会社のイニシアティブで柔軟に手続きが進められます。

Q5.個人の自己破産は通常どのくらいの期間で裁判所に申し立てますか?

【弁護士の解答】

通常の事件の場合、受任通知発送後、2~3ヶ月程度で申立てに至ることが多いです。

Q6.債務整理の際、弁護士が債権者に受任通知を送付することにどのような効果がありますか?

【弁護士の解答】

貸金業者は、債務者が個人の場合で、弁護士から受任通知を受けたとき、取り立てをとめなければいけません(貸金業法21条1項9号)。

【参考条文】

(取立て行為の規制)

第二十一条 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
一 正当な理由がないのに、社会通念に照らし不適当と認められる時間帯として内閣府令で定める時間帯に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること。
二 債務者等が弁済し、又は連絡し、若しくは連絡を受ける時期を申し出た場合において、その申出が社会通念に照らし相当であると認められないことその他の正当な理由がないのに、前号に規定する内閣府令で定める時間帯以外の時間帯に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること。
三 正当な理由がないのに、債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所を訪問すること。
四 債務者等の居宅又は勤務先その他の債務者等を訪問した場所において、債務者等から当該場所から退去すべき旨の意思を示されたにもかかわらず、当該場所から退去しないこと。
五 はり紙、立看板その他何らの方法をもつてするを問わず、債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること。
六 債務者等に対し、債務者等以外の者からの金銭の借入れその他これに類する方法により貸付けの契約に基づく債務の弁済資金を調達することを要求すること。
七 債務者等以外の者に対し、債務者等に代わつて債務を弁済することを要求すること。
八 債務者等以外の者が債務者等の居所又は連絡先を知らせることその他の債権の取立てに協力することを拒否している場合において、更に債権の取立てに協力することを要求すること。
九 債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
十 債務者等に対し、前各号(第六号を除く。)のいずれかに掲げる言動をすることを告げること。
2 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、債務者等に対し、支払を催告するために書面又はこれに代わる電磁的記録を送付するときは、内閣府令で定めるところにより、これに次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 貸金業を営む者の商号、名称又は氏名及び住所並びに電話番号
二 当該書面又は電磁的記録を送付する者の氏名
三 契約年月日
四 貸付けの金額
五 貸付けの利率
六 支払の催告に係る債権の弁済期
七 支払を催告する金額
八 前各号に掲げるもののほか、内閣府令で定める事項
3 前項に定めるもののほか、貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たり、相手方の請求があつたときは、貸金業を営む者の商号、名称又は氏名及びその取立てを行う者の氏名その他内閣府令で定める事項を、内閣府令で定める方法により、その相手方に明らかにしなければならない。

Q7.債権者である銀行に債務整理目的で受任通知を送付する際に注意すべきこととは?

【弁護士の解答】

銀行に受任通知を送付する際には、法人個人問わず、事前に必ず、預金を申立代理人弁護士に預けるか、少なくとも借り入れのない別口座等に移すべきです。 なぜなら、銀行に債務者が借金している場合で、受任通知を発送したとき、銀行はその受任通知を受け取った時点で、債務者名義の口座内にある預金を凍結し、相殺してしまうからです。したがって、銀行相手に借金をしていて、債務整理を行う場合には、必ずその銀行に預けていたお金を引き出しておくことが肝要です。

Q8.公租公課庁に破産予定を悟られてはいけない理由はなんですか?

【弁護士の解答】

破産開始決定の後は、破産財団に属する財産に対する国税滞納処分はできなくなる一方で(破産法43条1項)、すでにされている国税滞納処分の続行は妨げられません(同法2項)ので、税務署は、破産申立て前にいかに滞納を回収するかに全力を尽くしてきます。一般債権であれば、破産開始決定後であれば、強制執行を停止することができるのと差異があります。 したがって、公租公課庁に債務整理の受任通知は出さないで、債権者一覧表にひっそりと記載しておくのが無難です。

【参考条文】

破産法

(国税滞納処分等の取扱い)

第四十三条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する国税滞納処分(外国租税滞納処分を除く。次項において同じ。)は、することができない。
2 破産財団に属する財産に対して国税滞納処分が既にされている場合には、破産手続開始の決定は、その国税滞納処分の続行を妨げない。
3 破産手続開始の決定があったときは、破産手続が終了するまでの間は、罰金、科料及び追徴の時効は、進行しない。免責許可の申立てがあった後当該申立てについての裁判が確定するまでの間(破産手続開始の決定前に免責許可の申立てがあった場合にあっては、破産手続開始の決定後当該申立てについての裁判が確定するまでの間)も、同様とする。

Q9.破産等にかかる費用にはどのようなものがありますか?

【弁護士の解答】

弁護士費用(20万円~)

破産申立のための書類収集や官報公告のための諸費用(2万円程度)

破産管財人に収める予納金(20万円~)

Q10.裁判所から提示された予納金の額が交渉によって下がることはありますか?

【弁護士の解答】

あります。 裁判所に対して、当該財産が換価容易であることを追加立証したり、債務者に資金余力が乏しいことなどを上申して交渉することで下がる余地があります。したがって、予納金を収めることが難しい場合には、減額交渉を行ってみるのも手でしょう。

Q11.労災保険未加入でも未払賃金立替払制度の利用は可能ですか?

【弁護士の解答】

可能です。未払賃金立替払制度を利用するには、労災保険の適用事業主であって、1年以上事業を継続していること、法律上もしくは事実上倒産したこと、が要件になっています。しかし労災保険は本来すべての従業員に適用される必要がありますが、実際には雇用保険と同様に考えて、労災保険料を支払っていないことがあります。

しかしそんなときであっても、独立行政法人労働者健康安全機構に、社員の就労実態を報告し、必要書類に破産管財人が証明書を添付して申請することにより、利用が可能なります。

【申請に必要な書類】

  • 当該従業員の賃金台帳
  • タイムカード
  • 給料明細
  • 就業規則
  • 従業員本人からの陳述書

なお、未払賃金立替払制度は外国人労働者に対しても適用があります。また、未払賃金立替払制度利用後は、独立行政法人労働者健康安全機構が破産会社に対して求償権を取得します。

Q12.債務整理の際に行う債権調査の一般的注意事項はなんですか?

【弁護士の解答】

その1 すべての債権者を債権者一覧表に記載すること

  • 1 金融機関
  • 2 消費者金融
  • 3 保証人が保証債務を履行した場合の保証人に対する求償債務
  • 4 滞納公共料金
  • 5 家賃等
  • 6 勤務先・知人・親族からの借金
  • 7 生命保険会社からの契約者貸付金債務等

その2 注意すべきこと

  • 滞納公共料金や家賃等も破産債権なので、他の破産債権と扱いを異にして個別に弁済することは許されません。したがって、破産手続開始後も継続して利用することを予定している携帯電話や家賃などの債務については、受任通知発送前の段階で延滞分を解消しておくことが必要です。
  • 勤務先・親族・知人からの借金に関して、知られたくないとの理由で、債権者一覧表に記載しないことは許されません。
  • 非免責債権も債権者一覧表に記載しなければいけません。

その3 注意事項を破った場合のリスク

一部の債権者を記載しなかった場合、虚偽の債権者名簿の提出(破産法252条1項7号」として、免責不許可になることがあります。

Q13.破産手続開始決定を受けた際、再生債権はどのような扱いになりますか?

【弁護士の解答】

民事再生・個人再生等によって元債務を圧縮したものを再生債権といいます。再生計画の履行完了前に、再生債務者について破産手続開始の決定又は新たな再生手続開始の決定がなされた場合には、再生計画によって変更された再生性債権は、原状に復します(民事再生法190条1項)。したがって、減縮した金額が復活しますので、債権者一覧表には復活後の債務残高を記載することになります。

Q14.相続財産の破産申立という制度はどんなときに用いますか?

【弁護士の解答】

破産要件に該当する人物が死亡して、相続人が当該人物を相続することになるが、債務を相続したくないときに、相続財産の破産を先行して行うことで、債務の免責を受けて、残った財産を相続財産として相続するときなどに使えます。