Q1.100万円の賠償を受け取ることができる勝訴判決を得ましたが、相手がいっこうに払いません。どうしたらよいですか?

【弁護士の解答】

勝訴判決は、送達から2週間経過する間に控訴・上告されなかった場合、確定判決となります。確定判決となった判決文のことを、「執行力のある債務名義の正本」(民事執行法22条各号)といいます。

相手がお金を支払わない場合、この「確定判決」による強制執行をする必要がありますが、このとき、確定判決文について、裁判所において以下の手続きが必要になります。


送達証明書と、執行文付与がなされた後は、不動産や動産、預貯金債権などに差押えを行っていきます。

Q2.債務者財産の調査手続きの改正概要とは?

【財産開示手続の罰則強化】

財産開示手続期日への不出頭や、宣誓拒絶、不陳述、虚偽陳述について、いずれも6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰を科すことになりました(新法213条1項5号及び6号)。

【第三者からの情報収集】

  • 債務者の不動産に係る情報の取得(新法205条)
  • 債務者の給与債権に係る情報の取得(新法206条)
  • 債務者の預貯金債権や株式等に係る情報の取得(新法207条)

 

Q3.財産開示手続の要件とは?

【弁護士の解答】

① 執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者であること、又は一般先取特権者であること

債務名義の例 確定判決・仮執行宣言付判決・確定した支払督促
執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)・家事審判
和解調書・民事調停調書・家事調停調書・訴訟費用額確定処分
など(民事執行法22条)

② 執行開始要件を備えていること

債務者に当該債務名義の正本又は謄本が送達されていること。
(民執法197条1項但し書、同29条前段)
条件成就執行文又は承継執行文が付与された場合は、同執行文の謄本及び証明文書の謄本が送達されていることも必要。
(民事執行法29条後段)
請求が確定期限の到来に係る場合はその期限が到来していることも必要。
(民執法30条1項)
※債務者に破産手続開始決定等がなされて強制執行を開始することができない場合、財産開示手続を申し立てることはできません。


③ 強制執行の不奏功等(新法197条1項)

知られている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき。(新法197条1項2号)

実務上は、この「2号要件」を利用することが多い。現在の裁判所の運用上、この疎明は困難ではなく、債務者の住所所在地の不動産登記事項証明書の提出などで足りるとしている例が多い。
強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6か月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき(新法197条1項1号)。


④ 債務者が3年以内に財産開示手続において財産開示した者でないこと(新法197条3項)。

ただし、一部の財産の非開示、新たな財産の取得、雇用関係の終了がある場合の例外があります(同項ただし書)。

この要件は、申立の段階においては、明示的な主張立証を要しません。後行する債権者は先の財産開示手続の記録を閲覧謄写することが予定されています。

Q4.財産開示手続実施決定確定後の進み方とは?

【弁護士の解答】

財産開示期日が、実施決定確定から1か月程度で決まる。財産開示期日の約10日前が債務者の財産目録提出期限と指定されます。

財産開示義務者は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産について陳述する義務を負います。開示義務者は、自ら出頭し、宣誓の上で陳述する必要があり、代理人にさせることはできません(法198条2項2号)。

財産開示期日において、執行裁判所は、開示義務者に対して質問することができます(民執法199条3項)。申立人も、債務者の財産状況を明らかにする必要がある事項について、執行裁判所の許可を得て質問することができます(同条4項)。但し、根拠のない探索的な質問や、債権者を困惑させる質問は許可されません。事前に質問書を提出するべきと考えられます。

【質問事項・例】

  • 与振込先・電話代・光熱費の引落銀行口座
  • インターネットバンキング・証券取引・外貨取引・金取引等金融取引の有無
  • 子どもや家族名義も含め、債務者の計算で、預貯金・学資保険等積立型保険の有無
  • 給料以外の副収入
  • 債務者所有でない自動車・バイクを使用している場合、それは誰からどのような約束で借りているのか
  • 事前提出財産目録作成後新たに取得した財産の有無
  • ここ数年のうちに不動産又は、自動車等高額動産売却の有無、ある場合、その代金使途・現在残額の有無
  • その他、次のような財産があるか
    絵画・美術工芸品・船舶・建設機械・地上権・借地権・リゾート会員権・特許権・著作権・実用新案権・商標権等
  • その他債務者の財産に関連する事項一切

【陳述の対象となる事項】

  • 動産である場合には、所在場所ごとに主要な品目、数量及び価格を明示して陳述する必要があります(民執法199条2項、民執規184条)。
  • 強制執行あるいは担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項

ただし、債務者の財産のうち、生活に欠くことのできない衣服、寝具等、1か月間の食糧等(民執法131条1号・2号)は、陳述の対象にはなりません(民執法199条1項)。

【陳述義務の一部免除】(法200条1項)

次のいずれかに該当する場合、財産の一部を開示した上で、陳述義務の一部免除の許可を申し立てることができます。

  • 申立人の同意があること
  • 当該開示によって、法197条1項の金銭債権もしくは同条2項の被担保債権の完全な弁済に支障がなくなったことが明らかであること

 

Q5.債務者の不動産に係る情報の取得(新法205条)とは?

【弁護士の解答】

債務者の不動産に係る情報の取得に関する手続とは、執行裁判所が、強制執行の不奏功等の要件に該当するときに(民執法197条1項、2項)、債権者の申立てにより、登記所に対して債務者の不動産に関する情報提供を命じる制度です(民執法205条1項)。

【対象となる第三者】 ➡登記所

【申立書の記載事項】(新規則187条1項)

  • 申立人
  • 債務者(できる限り、ふりがな、生年月日、性別)
  • 情報提供を命じられるべき者の氏名又は名称及び住所等
  • 申立の理由
  • 登記所が検索すべき債務者が所有権の登記名義人である土地などの所有地の範囲

【登記所が情報提供すべき事項】 

債務者が所有権の登記名義人である土地等の存在及びその土地等が存在するときは、その土地等を特定するに足りる事項(規則189条)

Q6.給与債権に関する情報の取得とは?(民執法206条)

【定義】

執行裁判所が、

①不奏功等要件に該当するとき(民執法197条1項)

②養育費その他の扶養義務に係る請求権又は人の生命もしくは身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者の申立てにより、市町村(特別区を含む。)又は日本年金機構や国家公務員共済組合などの厚生年金保険の実施機関に対して債務者の給与債権に関する情報の提供を命じる制度です。

【要件】 

1 民執法197条1項各号のいずれかに該当すること

強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき(1号要件)

知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき(2号要件) 

2 債権が本条の適用対象となる請求権に該当すること

(1) 民法752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務

(2) 民法760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務

(3) 民法766条の規定による子の監護に関する義務

(4) 民法877条から880条までの規定による扶養の義務

(5) 人の生命もしくは身体の侵害による損害賠償請求権 

3 債権者が執行力のある債務名義の正本を有すること 

4 民執法206条1項各号に規定された者と情報であること

(1) 市町村(特別区を含む。)

(2) 日本年金機構、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、全国市町村職員共済組合連合会又は日本私立学校振興・共済事業団 

5 財産開示期日における手続前置(民執法206条2項、205条2項) 

6 申立期限  財産開示期日から3年以内に限り、することができます(同上) 

7 申立てを許容する決定の確定(206条2項、205条5項)

認容決定の送達を受けた債務者が執行抗告(205条4項)をした場合、それが退けられるまで、執行裁判所は、情報提供を命じる義務を負いません。 

8 強制執行が開始可能であること(206条1項柱書ただし書)