Q1.事業譲渡の定義とは

【弁護士の解答】

事業譲渡は、株式譲渡や資産譲渡などと異なり、場合によっては会社法の定めにより譲渡会社、譲受会社が義務や責任を負うため、その意義が問題となります。

判例は次のように述べて、事業譲渡の定義について、営業的活動の承継と競業避止義務の負担を要件としています。

〈判例〉

【最大判昭40・9・22】

株主総会の特別決議を経ることが必要な事業譲渡の定義について、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその剰余の限度に応じ法律上当然に同法25条に定めた競業避止義務を負う結果を伴うものをいう」と判示し、休業中の会社が唯一の営業財産を譲渡する場合であって、営業的活動の承継もなく、また、譲渡会社が競業避止義務を負うこともない事例について、結論として、かかる譲渡に際して株主総会決議は不要であるとしました。

【最大判昭41・2・23】

譲受人が譲渡会社の一切の債務を引き受け、かつ、譲渡会社の株式を譲り受けた事案について、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または一部を当該譲受人に受け継がせたといえないとして、「営業の譲渡」にあたらないとした。

【最二小判昭46・4・9】

譲渡会社が工場および敷地を譲渡することが事業の再開を実際上きわめて困難にする状態ではあるが、客観的に見てそれらの物件が組織的機能的な財産としての一体性を失うに至っていると推察される事案において、本件物件の売却は、(旧)商法245条1項1号にいう「営業の全部又は重要なる一部の譲渡」にあたらないとした。

Q2.事業譲渡に関する会社法の定めにはどんなものがありますか?

【弁護士の解答】

会社法21条から24条、同法467条から470条までが関連します。会社が商人に対して事業を譲渡する場合は商法17条ないし18条の2が適用され(会社法24条1項)、会社が商人の営業を譲り受けた場合には会社法22条ないし23条の2が適用される(同法2項)。

【決議要件】

事業の重要な一部の譲渡をする等の場合、株主総会の特別決議を要します(会社法467条1項2号)。「重要」とは、当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が、当該株式会社の総資産額(会社法施行規則134条)の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合は、「事業の重要な一部の譲渡」に該当せず、株主総会の特別決議は不要とされています。
 なお、この基準を上回った場合でも、すぐに「重要」な財産と判断するわけではなく、他の要素(売上高、利益、従業員数、譲渡事業のブランド力等)を総合的にみて事業全体の10%程度を越えなければ、通常、重要とは解しません。

「特別決議」とは、当該株主総会において議決権を行使することのできる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(会社法309条2項本文)。ただし、特例有限会社が事業譲渡会社になる場合には、『会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律』に基づく規制を受ける。

〈特例有限会社〉

  普通決議 特別決議
定足数 議決権行使可能株主の議決権の過半数を有する株主(定款で別段の定めを設けることは可能) なし
頭数要件 なし(定款で別段の定めを設けることは可能) 総株主の半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上
議決権要件 出席した当該株主の議決権の過半数(定款で別段の定めを設けることは可能) 総株主の議決権の4分の3(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上

〈株式会社〉

  特別決議
定足数 議決権行使可能株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合を定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主
頭数要件 なし(定款で別段の定めを設けることは可能)
議決権要件 出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)