Q1.家事を一切せず、働いてもいない妻に財産分与をしなければいけませんか?

【弁護士の解答】

実務では、婚姻期間中に形成、維持した財産がある場合には、妻が家事をしなかったことを理由として、相手の財産分与請求を拒否することは難しいです。しかし、財産形成、維持への相手の寄与が低いことを具体的に主張・立証できた場合、財産分与の範囲を小さくすることができる可能性があります。

【財産分与の法的性質】

財産分与に関して、民法768条3項は、「前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」と規定しています。財産分与の基準については、この条文しかなく、財産分与の額や方法の決定は、裁判所の広範な裁量に委ねられています。

【 財産分与の3類型】

① 清算的財産分与

夫婦共同生活中の共通の財産を、離婚時に清算するもの。これが財産分与の中心的要素です。

② 扶養的財産分与

離婚後の生活についての扶養としての財産分与であり、これが認められるのは、限定的な場合です。

③ 慰謝料的財産分与

慰謝料的要素を含めた財産分与も可能と解されていますが、実務上は、別途慰謝料請求をしていることが通常です。

【清算的財産分与の法的根拠】

通説は「我が国はいわゆる別産制を採用し、婚姻中に夫婦の一方が取得した財産は同人の所有となり、通常は夫名義とされる。しかし、夫の収入は妻の有形・無形の協力に負うものであり、これを実質的にみれば、夫名義の財産も夫婦の共有に属するというというべきである。右形式と実質の食違いは夫婦間に円満な生活が続いている限り問題とする必要はないが、離婚に至る場合、右形式どおりに財産を分配すれば著しい不公平が生ずる。したがって、婚姻の解消にあたり、右形式と実質の食違いを清算するのが清算的財産分与の手続である」としています。

この説明は、専業主婦を念頭においていると考えられるため、共働き夫婦が増加し、夫婦の財産管理や家計費用の負担も多用となってきた現在での実情にあわないケースも出てきています。

Q2.財産分与の基準時はいつですか?

【弁護士の解答】

分与対象財産確定の基準時は、原則として「別居時」です。したがって、早期に別居することにより、財産分与の額は減る可能性があります。なお、夫婦が住居を異にしていても、協力関係の実体が失われたとはいえない場合(一方が単身赴任をしている場合など)は「別居」とはいえません。

家庭内別居については、「日本の家屋の構造からすると、相互に干渉し合わずに生活することは不可能に近い場合が多く、同居しつつ実質的に経済的協力関係がなくなったと評価しうる場合はごくまれであると思われる」とされています。

別居後に夫婦の一方が実質的共有財産を費消した場合、費消された財産は分与対象財産から除外されないので、別居時の残高、解約返戻金額が分与対象財産になります。

Q3.財産分与対象財産の評価時はいつですか?

【弁護士の解答】

確定された分与対象財産の評価については、裁判時(調停成立時、口頭弁論終結時または審判時)が基準となります。 下の表にまとめたので参考にしてください。

不動産 不動産業者による査定書などで認定する。
当事者双方から異なる額の査定書が提出される場合は、固定資産評価証明書の評価額や路線価などで認定。
※費用がかかる不動産鑑定を行う例はほとんどない。
別居後に不動産が売却されている場合は、実際の売買価格から手数料を控除した手取額が時価とされる。
株式 口頭弁論終結時の時価額となる。
別居後に売却した場合は、売却額が評価額となる。
預貯金 別居時の残高となる。
基準時直前に多額の預貯金が引き出されて、その使途が合理的に説明されない場合には、それに相当する額が何らかの形で残存していたと認定される場合がある。
生命保険
学資保険
別居時の解約返戻金となる。

Q4.相手と離婚するとき、ほとんど私がつくった財産なのに、半分もあげないといけないの?

【弁護士の解答】

実務上は、50%ずつ分け合うのが原則です。「東京地裁における人事訴訟の審理の実情」では「寄与度(貢献度)については、基本的には、特段の事情がない限り2分の1を原則としつつ、特段の事情を主張する者にそれを裏付ける資料等の提出を求めることにしている」と述べられています(審理の実情28頁)。

【50%とは異なる寄与割合が認定された判例】

(1) 大阪高判平成12年3月8日判時1774号91頁

主に専業主婦であった妻の夫に対する財産分与請求について、裁判所は、「右財産の形成は、被控訴人(夫)が、一級海技士の資格をもち、1年に6カ月ないし11カ月の海上勤務をするなど海上勤務が多かったことから多額の収入を得られたことが大きく寄与しており、他方控訴人(妻)は主として家庭にあり、留守を守って1人で家事、育児をしたものであり、これらの点に本件に現れた一切の事情を勘案すると、被控訴人から控訴人に対し、財産分与として形成財産の約3割に当たる2300万円の支払を命ずるのが相当である。

控訴人は、被控訴人の有する右資格をもってその寄与度を高く評価するのは相当ではないと主張するが、資格を所得したのは被控訴人の努力によるものというべきであり、右資格を活用した結果及び海上での不自由な生活に耐えたうえでの高収入であれば、被控訴人の寄与割合を高く判断することが相当である」と判示した。

(2)東京家審平成6年5月31日家月47巻5号52頁

これは妻の寄与割合を高く認定した事案であるが、夫は画家、妻は童話作家で、婚姻後もそれぞれが各自の収入、預貯金を管理し、それぞれが必要な時に夫婦の生活費用を支出するという形態をとっていた夫婦について、「申立人(妻)と相手方(夫)は芸術家としてそれぞれの活動に従事するとともに、申立人は家庭内別居の約9年間を除き約18年間専ら家事労働に従事してきたこと、及び、当事者双方の共同生活について費用の負担割合、収入等を総合考慮すると……申立人寄与割合を6、相手方のそれを4とするのが相当である。」と判示した。

(3) 大阪家審平成23年7月27日判時2154号78頁

内縁夫婦の事案であるが、夫は会社の創業者・代表取締役、妻は主に専業主婦で、同居開始時に夫は約2億円の金融資産を有した事案について、裁判所は別居時における夫の資産総額のうち、その大きな部分は、従前の資産の運用の結果やいわゆるバブル経済下における株式の評価額の増大を含むものであることは否定できないとして、同居期間中に形成された1億円のうち、その形成及び維持につき、2割程度は妻の寄与があるとした。

このような判例からみると、

①本人の資格や特別の努力による財産形成

②本人の固有資産の運用等による資産の形成

がある場合には、相手の寄与割合は50%以下と主張できる場合もあると考えられます。

また、本人の固有資産の運用等による財産の増加については、その増加部分が特定ないし計算できる場合には、そもそも本人の固有財産(特有財産)であって、財産分与対象財産ではないとの主張も可能と思われます。

Q5.私のローンで立てた家を、相手が財産分与しろと言っていますが、まだローンが2000万円残っています。どうしたらいいですか?

【弁護士の解答】

財産分与は、原則としてプラスの財産を分与するものであるとして、債務の分与については、これを考慮しない審判や判決が一般的です。調停実務では、清算的財産分与は、財産分与の対象となる不動産や預貯金等の積極財産がある場合には請求できますが、積極財産がなく、双方が婚姻生活を営むために負った債務しかない場合には、清算すべき対象財産がないとして請求できないとされています。
また、積極財産と債務の双方がある場合には、積極財産の評価額から債務を控除して、プラスとなれば積極財産があるとして財産分与請求権を認めています。しかし、プラスとならないときは、積極財産がないとして財産分与請求権を認めていません。

【控除対象となる債務とは?】

実務においては分与する財産が債務超過でない場合には、次のものを控除対象の債務としています。

「婚姻後の資産の形成に関連して生じた債務」は、積極財産から控除します。例えば、住宅ローンや車のローンなどで、住宅や車が財産分与の積極財産であれば、これを取得するために負担したローンは消極財産として計算します。

「生活費の不足を補うために借入れをしたカードローンや教育ローンも、積極財産から控除します。
 もっとも、この点について、その使途が生活費や教育費であるのか、個人の遊興費などであるかが争われることが多いです。

【東京地判平成5年2月26日判タ849号235頁】

 この判例では、妻の借金約1400万円については、それは「妻の個人的な投資の失敗に基づくものが大半であるから、財産分与算定の消極的要素としてこれを全額基礎にすることは相当ではないから、右の約3分の1に相当する金500万円を財産分与算定の基礎に入れることにする。」としています。

【債務超過の場合】

たとえば自宅不動産の価格より住宅ローンの残額が多い、オーバーローン状態のときには、財産分与請求は認められません。この場合、離婚後も当該債務者その債務者が返済することになります。そして、当該自宅不動産は、財産分与対象財産にはならないので、そのままの状態で放置されることになります。

Q6.私が住宅ローンの債務者で、私名義の住宅を、別居後相手が住んでいるので明け渡してほしいのですが、可能でしょうか?

【東京地判平成24年12月27日判時2179号78頁】

離婚及び財産分与を命ずる判決が確定した後に、前記財産分与の計算から外された不動産(元夫名義)を占有する被告(元妻)に対して、原告(元夫)が明渡しを求めた事案において、本件不動産については、離婚訴訟の際の財産分与とは別個に権利関係を確定し、その清算に関する処理がされるべきところ、本件不動産の取得にかかる原資の約3分の1を自己の固有財産から出捐した被告には、本件不動産のうち少なくとも3分の1の持分が帰属するから、原告は、現に本件不動産を占有する被告に対し、所有権に基づき、当然に明渡しを求めることができないとして、原告の明渡し請求を退けるとともに、被告が持分を超えて占有する部分については、権原のない占有であるとして使用料相当の損害金の支払いを被告に命じたものがあります。

Q7.夫婦財産契約とはなんですか?

【弁護士の解答】

民法755条は、「夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。」と定めています。この民法の条文の体裁から明らかなように、民法は、夫婦別産制について、夫婦が別段の契約をすることを原則とし、この契約がなかった場合に、夫婦の財産関係は、第2款の法定財産制によることとしています。

民法756条以下で定める夫婦財産契約は、

①婚姻届出前に契約をしなければならない

②婚姻届出前までに登記をしないと第三者に対抗できないこと

③日本では婚姻前に財産について契約を締結することは心情的な抵抗感が強いこと

以上のような理由から、ほとんど使われていませんが、欧米では資産家などが締結することも多く、現在、日本でも注目を集めています。夫婦財産契約において、婚姻中の生活費の負担方法や、離婚時の財産分与について合意した場合には、それが一方当事者にあまりに不利で公序良俗に反する等の事情がない限り、その合意は有効といえます。

【参考条文】

民法

(夫婦の財産関係)

第七百五十五条 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。

(夫婦財産契約の対抗要件)

第七百五十六条 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。

(夫婦の財産関係の変更の制限等)

第七百五十八条 夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない。

2 夫婦の一方が、他の一方の財産を管理する場合において、管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは、他の一方は、自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる。

3 共有財産については、前項の請求とともに、その分割を請求することができる。

(財産の管理者の変更及び共有財産の分割の対抗要件)

第七百五十九条 前条の規定又は第七百五十五条の契約の結果により、財産の管理者を変更し、又は共有財産の分割をしたときは、その登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。

第二款 法定財産制

(婚姻費用の分担)

第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

(日常の家事に関する債務の連帯責任)

第七百六十一条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

(夫婦間における財産の帰属)

第七百六十二条 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。

2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

Q8.私は専業主夫ですが、離婚するとき、医師である妻に財産分与請求できますか?

【弁護士の解答】

可能です。男でも女でも財産分与をうける権利はあります。

Q9.財産分与の対象となる財産を把握するため、資料を収集するにはどのような方法がありますか?

【弁護士の解答】

弁護士照会制度と調査嘱託制度があります。

【財産分与の現状】

財産分与は家事審判事項であり、職権探知主義が採用されています(家事事件手続法56条)。しかし、実務上は当事者主義的運用がなされており、財産分与を主張する者が分与対象財産の特定をしなければなりません。対象財産の存在およびその内容については、分与を請求する側に事実上の主張・立証責任があります。

【弁護士照会制度とは】

弁護士照会制度とは、弁護士法23条の2に基づき、弁護士が訴訟その他の受任事件を処理する上で必要となる資料や証拠を収集するための制度です。裁判外の調査方法として、離婚調停が始まる前、調停中、離婚訴訟中、財産分与審判手続中など、手続きの段階を問わず、いつでも利用できる点に特色があります。事件を受任している場合に限らず、法律相談を受けて法的手続を検討中の場合であっても利用できます。申出の理由は、「婚姻中形成された財産を明らかにし、財産分与対象財産を確定するため」で足ります。照会先の記載については、照会先が大企業などのように多くの部署に分かれている場合は、事前に電話などの方法により照会先の担当部署を確認しておくことが必要です。別居時の預金残高を照合することになりますが、別居前に相手が預金を引き下ろしている場合が多いので、別居時の少なくとも1年くらい前以降の取引履歴を照合するとよいです。なお、生命保険、年金保険等の加入の有無については、各生命保険会社に個別に照会を行う必要があります。近時は、個人情報であることを理由に照会に応じない機関もあることが難点です。

【調査嘱託等とは】

・離婚訴訟中の場合

離婚訴訟では、調査嘱託の申立て(民事訴訟法186条)、文書提出命令(同法223条)および文書送付嘱託(同法226条)が利用できます。調査嘱託の申出が利用されることが多いです。

(1)調査嘱託の申立をすると、嘱託先の金融機関等と取引があったことについて疎明を求められ、通帳の写し、取引明細書等の提出を求められる場合があります。裁判所は、いわゆる探索的な調査嘱託を採用することは望ましくないとしていますので、どこにどのような財産があるのかまったく見当がつかない場合にはこの手続は利用できません。

 したがって、同居中から夫婦の財産管理に関心をもってこれにかかわり、夫婦の実質的共有財産の把握に努めておくことが肝要となります。

(2)裁判所で調査嘱託が採用されても、嘱託先が同意書を求めてくることがあります。この場合は、相手に同意書の提出を請求することになります。しかし、相手が同意書の提出を拒んだ場合、これを強制する方法はありません。

(3)東京家庭裁判所では

①調査嘱託を採用する場合は名義人の同意をとり、金融機関から同意書の提出が求められた場合にはこれに協力するよう求める

②正当な理由なく調査嘱託に同意しない場合には、相手の主張を前提とした事実認定がなされる可能性がある旨警告して同意を得る

という取り扱いがなされています。

(4)調査の結果、普通預金口座の取引履歴が明らかになり、銀行口座への送金の記載から証券会社で証券取引を行っていることがうかがわれる場合には、さらに追加で調査嘱託の申出をすることができます。

・ 離婚調停中ないし財産分与審判手続中の場合

(1)家事審判手続について定める家事事件手続法62条は、「家庭裁判所は、必要な調査を官庁、公署その他適当と認める者に嘱託し、又は銀行、信託会社、関係人の使用者その他の者に対し関係人の預金、信託財産、収入その他の事項に関して必要な報告を求めることができる」と定めています。したがって、離婚後の財産分与審判については、調査嘱託および報告の請求手続が利用できます。

(2)家事事件手続法62条は、同法258条で調停手続にも準用されています。したがって、離婚調停に付随して財産分与の申立がある場合や、離婚後、財産分与調停を申し立てた場合には、調査嘱託および報告の請求手続きが利用できます。

(3)問題

調停において調査嘱託の手続きが採用される場合がほとんどありません。調停は、相手方を説得して財産を開示させることを目指して運用され、調査嘱託の申立をしても採用されない場合が多いのです。調停で調査嘱託が採用されない背景事情としては、書記官等の人手不足と思われ、人員体制を含めた改善が求められています。

【書式】

調査照会申出書👈

調査嘱託申立書👈

【参考条文】

民事訴訟法

(調査の嘱託)

第百八十六条 裁判所は、必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができる。

(書証の申出)

第二百十九条 書証の申出は、文書を提出し、又は文書の所持者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない。

(文書提出義務)

第二百二十条 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。

一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。

二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。

三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。

四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。

イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書

ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの

ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書

ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)

ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

(文書提出命令の申立て)

第二百二十一条 文書提出命令の申立ては、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。

一 文書の表示

二 文書の趣旨

三 文書の所持者

四 証明すべき事実

五 文書の提出義務の原因

前条第四号に掲げる場合であることを文書の提出義務の原因とする文書提出命令の申立ては、書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければ、することができない。

(文書の特定のための手続)

第二百二十二条 文書提出命令の申立てをする場合において、前条第一項第一号又は第二号に掲げる事項を明らかにすることが著しく困難であるときは、その申立ての時においては、これらの事項に代えて、文書の所持者がその申立てに係る文書を識別することができる事項を明らかにすれば足りる。この場合においては、裁判所に対し、文書の所持者に当該文書についての同項第一号又は第二号に掲げる事項を明らかにすることを求めるよう申し出なければならない。

2 前項の規定による申出があったときは、裁判所は、文書提出命令の申立てに理由がないことが明らかな場合を除き、文書の所持者に対し、同項後段の事項を明らかにすることを求めることができる。

(文書提出命令等)

第二百二十三条 裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で、文書の所持者に対し、その提出を命ずる。この場合において、文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部分を除いて、提出を命ずることができる。

2 裁判所は、第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には、その第三者を審尋しなければならない。

3 裁判所は、公務員の職務上の秘密に関する文書について第二百二十条第四号に掲げる場合であることを文書の提出義務の原因とする文書提出命令の申立てがあった場合には、その申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該文書が同号ロに掲げる文書に該当するかどうかについて、当該監督官庁(衆議院又は参議院の議員の職務上の秘密に関する文書についてはその院、内閣総理大臣その他の国務大臣の職務上の秘密に関する文書については内閣。以下この条において同じ。)の意見を聴かなければならない。この場合において、当該監督官庁は、当該文書が同号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べるときは、その理由を示さなければならない。

4 前項の場合において、当該監督官庁が当該文書の提出により次に掲げるおそれがあることを理由として当該文書が第二百二十条第四号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べたときは、裁判所は、その意見について相当の理由があると認めるに足りない場合に限り、文書の所持者に対し、その提出を命ずることができる。

一 国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ

二 犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ

5 第三項前段の場合において、当該監督官庁は、当該文書の所持者以外の第三者の技術又は職業の秘密に関する事項に係る記載がされている文書について意見を述べようとするときは、第二百二十条第四号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べようとするときを除き、あらかじめ、当該第三者の意見を聴くものとする。

6 裁判所は、文書提出命令の申立てに係る文書が第二百二十条第四号イからニまでに掲げる文書のいずれかに該当するかどうかの判断をするため必要があると認めるときは、文書の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された文書の開示を求めることができない。

7 文書提出命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる。

(当事者が文書提出命令に従わない場合等の効果)

第二百二十四条 当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。

2 当事者が相手方の使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたときも、前項と同様とする。

3 前二項に規定する場合において、相手方が、当該文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる。

(第三者が文書提出命令に従わない場合の過料)

第二百二十五条 第三者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、決定で、二十万円以下の過料に処する。

2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

(文書送付の嘱託)

第二百二十六条 書証の申出は、第二百十九条の規定にかかわらず、文書の所持者にその文書の送付を嘱託することを申し立ててすることができる。ただし、当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合は、この限りでない。

家事事件手続法

(事実の調査及び証拠調べ等)

第五十六条 家庭裁判所は、職権で事実の調査をし、かつ、申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをしなければならない。

2 当事者は、適切かつ迅速な審理及び審判の実現のため、事実の調査及び証拠調べに協力するものとする。

(調査の嘱託等)

第六十二条 家庭裁判所は、必要な調査を官庁、公署その他適当と認める者に嘱託し、又は銀行、信託会社、関係人の使用者その他の者に対し関係人の預金、信託財産、収入その他の事項に関して必要な報告を求めることができる。

(家事審判の手続の規定の準用等)

第二百五十八条 第四十一条から第四十三条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除について、第四十四条の規定は家事調停の手続における受継について、第五十一条から第五十五条までの規定は家事調停の手続の期日について、第五十六条から第六十二条まで及び第六十四条の規定は家事調停の手続における事実の調査及び証拠調べについて、第六十五条の規定は家事調停の手続における子の意思の把握等について、第七十三条、第七十四条、第七十六条(第一項ただし書を除く。)、第七十七条及び第七十九条の規定は家事調停に関する審判について、第八十一条の規定は家事調停に関する審判以外の裁判について準用する。

2 前項において準用する第六十一条第一項の規定により家事調停の手続における事実の調査の嘱託を受けた裁判所は、相当と認めるときは、裁判所書記官に当該嘱託に係る事実の調査をさせることができる。ただし、嘱託を受けた家庭裁判所が家庭裁判所調査官に当該嘱託に係る事実の調査をさせることを相当と認めるときは、この限りでない。

Q10.相手方が財産を処分するおそれがある場合、どうしたらよいですか?

【弁護士の解答】

財産分与請求権は家事審判事項ですが(家事事件手続法別表第2第4項)、裁判上の離婚に伴う財産分与は、人事訴訟である離婚訴訟に付帯して申し立てることができます(人事訴訟法32条、附帯処分)。離婚前であれば、いつでも、財産分与請求権を被保全権利として人事訴訟を本案とする保全処分の申立てをすることができます(人事保全)。このほか、人事訴訟法17条1項により人事訴訟に併合請求が認められている損害賠償(慰謝料請求)を被保全権利とする保全処分もあります。保全処分の要件・審理については、通常の民事保全と同様です。

【管轄】

離婚訴訟を本案とする保全処分事件については、本案の管轄裁判所または仮に差し押さえるべき物もしくは係争物の所在地を管轄する家庭裁判所となります(人事訴訟法30条2項)。

【保全処分の要件(民事保全法13条1項・2項)】

① 被保全権利の存在

② 保全の必要性

※相手方が財産を隠匿・処分しようとしているなど緊急性があること

③ 離婚の認容についての蓋然性

④ 財産分与請求権を基礎づける事実

【実務】

財産分与請求権を被保全権利とする仮差押えが利用されます。預金・退職金請求権、不動産などの仮差押えが行われています。特定物(住居など)について処分禁止の仮処分の申立てをする際には、申立人が当該財産の分与を受ける蓋然性が高いことが必要です。裁判所は、債務者の負担を考慮して、不動産、預貯金、退職金請求権といった順で差押えを認める傾向にあります。

【保証金】

離婚になれば、何らかの財産分与請求権が認められる可能性が高いので、通常の民事保全より若干低額になります。

【不服申立て】

保全処分に対し、債務者は保全異議の申立てをすることができます(民事保全法26条)。債権者は、保全処分を却下する裁判に対し、即時抗告できます(同法19条1項)

【離婚後の家事保全】

離婚後の保全の場合、使用条文が異なります。離婚後の財産分与請求は、家庭裁判所に、離婚成立後2年以内に財産分与を求める審判・調停の申立てをする必要があります。この場合、審判前の保全処分の申立てをすることができます(家事事件手続法105条1項、157条1項)。調停中であっても、保全処分を行うことができます。

【参考条文】

民事保全法

(申立て及び疎明)

第十三条 保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。

2 保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。

(却下の裁判に対する即時抗告)

第十九条 保全命令の申立てを却下する裁判に対しては、債権者は、告知を受けた日から二週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる。

2 前項の即時抗告を却下する裁判に対しては、更に抗告をすることができない

(保全異議の申立て)

第二十六条 保全命令に対しては、債務者は、その命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができる。

家事事件手続法

(審判前の保全処分)

第百五条 本案の家事審判事件(家事審判事件に係る事項について家事調停の申立てがあった場合にあっては、その家事調停事件)が係属する家庭裁判所は、この法律の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずる審判をすることができる。

2 本案の家事審判事件が高等裁判所に係属する場合には、その高等裁判所が、前項の審判に代わる裁判をする。

(婚姻等に関する審判事件を本案とする保全処分)

第百五十七条 家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、次に掲げる事項についての審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者の申立てにより、当該事項についての審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

一 夫婦間の協力扶助に関する処分

二 婚姻費用の分担に関する処分

三 子の監護に関する処分

四 財産の分与に関する処分

2 家庭裁判所は、前項第三号に掲げる事項について仮の地位を定める仮処分(子の監護に要する費用の分担に関する仮処分を除く。)を命ずる場合には、第百七条の規定により審判を受ける者となるべき者の陳述を聴くほか、子(十五歳以上のものに限る。)の陳述を聴かなければならない。ただし、子の陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

人事訴訟法

(関連請求の併合等)

第十七条 人事訴訟に係る請求と当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求とは、民事訴訟法第百三十六条の規定にかかわらず、一の訴えですることができる。この場合においては、当該人事訴訟に係る請求について管轄権を有する家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。

2 人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求を目的とする訴えは、前項に規定する場合のほか、既に当該人事訴訟の係属する家庭裁判所にも提起することができる。この場合においては、同項後段の規定を準用する。

3 第八条第二項の規定は、前項の場合における同項の人事訴訟に係る事件及び同項の損害の賠償に関する請求に係る事件について準用する。

(保全命令事件の管轄の特例)

第三十条 人事訴訟を本案とする保全命令事件は、民事保全法(平成元年法律第九十一号)第十二条第一項の規定にかかわらず、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する家庭裁判所が管轄する。

2 人事訴訟に係る請求と当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求とを一の訴えですることができる場合には、当該損害の賠償に関する請求に係る保全命令の申立ては、仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する家庭裁判所にもすることができる。

(附帯処分についての裁判等)

第三十二条 裁判所は、申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他の子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分又は厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第七十八条の二第二項の規定による処分(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。

2 前項の場合においては、裁判所は、同項の判決において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。

3 前項の規定は、裁判所が婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において親権者の指定についての裁判をする場合について準用する。

4 裁判所は、第一項の子の監護者の指定その他の子の監護に関する処分についての裁判又は前項の親権者の指定についての裁判をするに当たっては、子が十五歳以上であるときは、その子の陳述を聴かなければならない

Q11.財産分与に対する課税処分はありますか?

【弁護士の解答】

不動産を譲渡する場合、譲渡者に譲渡所得税が課税されるおそれがあります。財産分与、慰謝料ともに、金銭で支払われる場合には、財産分与を行う者に対する課税はありません。一方で、財産分与が不動産などの資産の譲渡によって行われる場合には、資産が購入時より値上がりしていたとき、譲渡所得税が課税されます。

【判例(最三小判昭50・5・27民集29巻5号614頁)】

① 譲渡所得税は資産の値上がりによる増加益を所得として課税する趣旨のものであるから譲渡が有償か無償かを問わない、②財産分与者は不動産の譲渡によって財産分与義務が消滅するという経済的利益を得ているとして、課税処分を正当としています。4 高額な課税処分を知らなかったことを理由とした財産分与の錯誤無効 最一小判平元・9・14家月41巻11号75頁は、自己に課税されないことを当然の前提としていることが黙示的に表示されていると認められるから、錯誤の成否、重過失の有無を審理すべきとしています。そして、差戻後の控訴審で、銀行員の例で、錯誤無効を認めています。

Q12.子名義の財産は財産分与の対象ですか?

【弁護士の解答】

子の固有の財産であれば分与対象財産には含まれませんが、実質的に夫婦に帰属していると認められる場合には清算の対象になります。預金の趣旨・目的に照らして判断することになります。たとえば、子が両親や祖父母等から贈与を受けたものを預金している場合や、アルバイト代金等を貯金した場合には、子の固有財産になります(高松高判平9・3・27)。子名義の預貯金が夫婦の実質的共有財産とみるべき場合には、管理している方名義の財産として整理します

【学資保険について】

学資保険の性質は貯蓄性の保険一般と同じなので、審判や判決となれば、夫婦の一方を契約者とする生命保険・養老保険や年金保険と同様に、被保険者や受取人の名義のいかんを問わず、夫婦の実質的共有財産として清算的財産分与の対象となります。なお、このとき評価額は、別居時の解約返戻金額です。

Q13.財産分与の対象にならない特有財産とはどういったものですか?

【弁護士の解答】

婚姻前から夫婦の各々が所有していた財産や、婚姻中に夫婦の各々が相続や贈与によって取得した財産など、夫婦の一方が他方と無関係に取得・形成した財産は、夫婦の各々の特有財産とされ、原則として財産分与対象財産とはなりません。実務上は、婚姻期間中(先行する内縁の期間も含む)に取得・形成された財産は、夫婦の実質的共有財産と推定され、取得・形成の経緯等から特有性が明らかにならない限り、財産分与の対象財産になります。

したがって、特有性を争うときには、緻密な主張・立証が必要です。

Q14.(寄与度問題)住宅購入時に夫婦として2000万円を出して、妻の父から1000万円贈与されたお金を使った場合、その夫婦1/2ずつ共有している住宅は財産分与上どのように扱われますか?

【弁護士の解答】

一方配偶者の特有財産を原資の一部として取得・形成された財産については、基本的には分与対象財産として評価した上で、特有財産が原資となっている点は「寄与度」の問題になります。

【寄与度の計算方法】

① 夫の寄与度=2000万円×1/2÷3000万円=1/3

② 妻の寄与度=【2000万円×1/2+1000万円(特有財産)】÷3000万円=2/3

現在の住宅価格に上記寄与度を乗ずることで、各人の財産分与上の取り分を把握します。

Q15.交通事故損害賠償金(慰謝料、逸失利益)は財産分与の対象ですか?

【弁護士の解答】

夫婦の一方が交通事故により婚姻期間中に受領した損害保険金については、傷害慰謝料や後遺障害慰謝料に対応する部分はもっぱら交通事故にあった本人の精神的苦痛を慰謝するものであるので特有財産にあたります。しかし、逸失利益に対応する部分は、将来の所得の前払いにあたるため財産分与の対象になります(大阪高判平17・6・9家月58巻5号67頁)。

Q16.相手の特有財産に配偶者として維持に労力をかけて貢献した場合、その寄与度を評価して財産分与に影響を与えることができますか?

【解答一例】

たとえば、妻が結婚後、夫の相続財産であるマンションの賃料の取り立てや修繕などの管理をしていたが、とくに労力に見合った給与を受けていなかった場合などでは、分与対象財産として評価・算入すべき価額を、裁判所が合理的裁量によって判断することがあります。